eat me.
女の子って 何でできている?
お砂糖に、スパイスに、
素敵なものすべて、
そういうもので できている。
-What are little boys made of? 第二節
「お兄ちゃん。…わたしをたべち
ゃってください…」
か細い声でそう呟くミクを前に、
僕はどうすることも出来ず、
その場で硬直することしかできな
かった。
いつもの衣装と違う外出用の服を
着て、真っ赤な顔を必死に僕の方
へ向けながら、
それでも甘えるようにこちらを見
つめてくるその様は、
いつも見慣れているミクとは懸け
離れた姿。
視覚情報だけじゃない。いつにな
く接近したおかげで感じることが
できる、
彼女から漂う甘い香りとか、膝に
密着するやわらかくて温かい太も
もの感触だとか、
緊張しているのか若干早くなった
吐息の音とか…
いわゆるこれが「据え膳」と表現
される状況なのだろうかと
思考領域の片隅で冷静に分析して
みるけど、そんな風に思考逃避し
たところで
目の前の状況がどうにかなってく
れるはずもなく…
ちなみに、彼女と僕の名誉のため
にあらかじめことわっておくけれ
ど
僕らはいわゆる兄妹機関係という
範囲においての親愛表現とかはあ
るにせよ
男女関係とか…いわゆるあけすけ
なそういう行為…みたいなものは
今現在一切無い。
今日だってせっかくだから二人で
どこか出掛けようかって、
他愛もない予定だったはずなんだ
。…それが何だってこんな事にな
ってるんだ?
気を抜こうものならたちまち処理
落ちしそうになる思考をどうにか
遣り繰りしつつ、
僕は間近に迫るミクの顔に出来る
だけ自然にほほえみかける。
「…ミク…ひとつ、聞いても良い
かな?」
「…?」
翡翠色の瞳を潤ませながら、小首
を傾げるミク。
状況からすればとっても間抜けな
質問であることは明白だったが、
僕は意を決して問い掛けた。
「…何でこんな事になってるのか
説明してくれないか?」
その場でひっぱたかれるぐらいは
覚悟していたのだけれど
ミクは素直に頷いて説明をしてく
れた。
ただ、あえて不満を述べるなら…
僕の膝にまたがったまま…なのだ
が…
邪念を振り払いながら聞いた彼女
の話によると
こうなった原因は朝まで遡らない
といけないらしい。
僕がまだスリープ状態から復帰す
る前…
VOCALOIDに与えられた共
有フォルダで、
ミクは僕と出かけるために髪を結
ってたんだそうだ。
彼女の髪はとても長いから、形を
整えて結い上げるには
どうしても他人の手を借りなきゃ
ならない。
いつもなら僕が手伝うところだけ
ど、今朝はリンにお願いしたんだ
という…
そして、時折メモリに接続しなが
ら、
ミクはその時に行われた会話を一
字一句違えずに語り出した。
「ところで…ミク姉とにぃにぃっ
てどこまでいってるんスか?」
浮かれながら仕上げの髪留めを止
めていくミクに、リンが突然声を
かけた。
しかし、妹機の発した言葉の意味
がわからず、ミクは困ったように
首を傾げる。
「…どこまで…って?」
「ミク姉とKAITOにぃってい
つも一緒にいるけど…一緒にいる
だけだなぁって思ったッス。」
臆面もなくそう言ってのけるリン
の手には、
おそらくMEIKOあたりがその
場に放って置いたであろう女性向
けファッション雑誌。
開かれた頁には愛欲にもっと正直
になってもいいじゃない!?なる
表題が踊っている。
「マスターの所で歌うのも、ここ
でくつろぐのもいつも一緒。
こうやって休みには一緒に出掛け
て…
でも、結局それだけなんスよね?
今までずーっと。
…ミク姉ほんとにそれでいいッス
か?
ミク姉は自分なんかよりずっと女
の子らしいんだし、
もっと積極的に仕掛けてっても良
いと思うッス!!」
ここまで来て、ようやくリンの発
言の意図に思い至ったミクは
顔を真っ赤にさせて頭を振った。
「……………!?せ、積極的って
!?そ、そんなこと出来ないよっ
!!」
「でも、いまのままだと正直ミク
姉とKAITOにぃって、
単なる兄妹以外の何物でもないッ
スよ?
ミク姉がそれで良いなら、自分が
どうこう言える問題じゃないのわ
かってるんスけど…
ぶっちゃけ、このままKAITO
兄が別の女の人とか好きになっち
ゃったりしたら、
ミク姉嫌でしょ?」
「そ…れは…いやだけど…」
「という問題の前に、
そもそもKAITO兄さんってミ
クさんのことどう思ってるんでし
ょうか?」
パワーシンガーの面目躍如と言わ
んばかりに怒濤の勢いでまくし立
てるリンと、
それに押されながら、ぽつりと言
葉を洩らすミク。
そんな二人の会話に、涼しげなボ
ーイソプラノが割り込んだ。
「まぁ。こう言うのも何ですけど
…KAITO兄さんは恋愛的な話
に関して鈍そうですし」
今までソファに腰掛けたまま携帯
ゲームに興じていたレンが、
視線はそのままに声を出したのだ
。
思わぬ伏兵の参戦に、ミクは眼を
くるくるさせて言葉を考えるが…
何も言葉が浮かんでこない。
ミクが無言なのを良いことに、
妹弟達はKAITOの鈍さについ
てあれやこれやと推論を述べ始め
…
「鈍そうじゃなくって、あいつ、
相当鈍いわよ?」
ミクの混乱に追い打ちをかけるよ
うなタイミングで、
今度はMEIKOがフォルダの中
へとやってきた。
「鈍いって言うか…朴念仁?唐変
木?のれんに腕押し糠に釘…
まぁこの際どれでもいいわ。それ
でいて八方美人な所があるから厄
介よね。
良く言えば人当たりが良いって言
うんでしょうけど…誰彼構わず優
しくするんだから、
狙ってんじゃないかと内心疑った
りもしたくなるんだけどね
ホントどんな思考ルーチンしてん
だか…我が弟機ながらいまいちよ
く分からないわ」
砲弾のように突き出した、形の良
い胸の下で腕を組み、
MEIKOは神妙な顔で辺りを見
回すと…
一転して、どこか悪戯っぽい笑顔
をその美貌に浮かべ三人の方へと
振り向いた
「で?何の話してるのよ。おねー
さんにも一枚噛ませなさい!」
心強い見方を得たとばかりに、リ
ンははい!と元気良く手を挙げる
「ミク姉とKAITOにぃの恋愛
ステップアップについて話してる
とこッス!
にぃにぃからのアプローチは望み
薄なんでー、
自分はミク姉から積極的にいくこ
とをオススメしたッス!」
「り、リンちゃん…私、そんなつ
もりは…」
「あら、また面白そうなことして
るのね。
まっかせなさい!だったら私に良
い案あるわよ~」
「ふぇぇぇぇぇぇっ!!」
「それでお姉ちゃんが
『取り敢えず中途半端なことした
って気づく訳ないんだから』って
言って…」
「ミク。もういい。もういいから
…」
どうしようもない疲労感を感じて
、僕はミクの言葉を遮った。
何だって彼らはこういった予測も
できないような連携プレーに定評
があるんだろうか…
なんなんだ?リンとレンはともか
く、
姉さんは僕と同じエンジン使って
るんじゃなかったのか?
それとも僕にはない修正プログラ
ムでもダウンロードしたって言う
のだろうか?
…というか、それ以前の問題とし
て、
彼らの視点から見た自分の扱いの
酷さに涙が浮かぶ。
しかもその内容が一字一句違えず
ミクの口から出てくることが、
情けなさに拍車をかけてくるわけ
で…
額に手を当て、僕は大きな溜息を
ついた。
「…それで、ミクは姉さんに取り
敢えず僕を押し倒してこいって言
われたんだね…」
「…」
僕は大きく頷いた。姉さんの差し
金であればこのトンデモ展開に納
得がいく
あたりまえだ。こんな可愛いミク
が自分の意志でこんなことするは
ずがない。
しかし姉さんも姉さんだ、僕をい
じるにしても、わざわざミクを使
うことないだろう…
状況を理解すると同時に僕の思考
回路内で怒りが沸き上がる。
もちろん、怒りの向かう先はミク
にこんな茶番を演じさせた姉さん
と鏡音姉弟だ。
「ミクも姉さんに言われたからっ
て無理しなくていいんだよ?
嫌だ
ったらちゃんと嫌って言わなきゃ
…」
「…違うもん。」
「はい?」
思いもよらない言葉に視線を前へ
と向き直せば、
目に涙を一杯溜めて、小さな拳を
握りしめ…
僕の膝の上で小さく震えるミクと
視線がぶつかった
「お姉ちゃんにやれって言われた
けど。
無理にじゃないもん…私がやりた
くってやったんだもん!」
シミュレートしていた仮説が根底
から崩されて、僕は再び硬直する
。
「お兄ちゃんはいつも笑ってる!
お姉ちゃんとか、リンちゃんとか
にはもっと色んな表情を向けてる
のに、
私には笑顔しか見せてくれないじ
ゃない!
私だって、お兄ちゃんの色んな顔
、見たいのに!!!」
ミクの双眸から堪えきれなくなっ
た涙が溢れ出た。
愕然としたままの僕の目の前で、
ミクはその涙を振り絞るようにし
て声をあげた。
「お姉ちゃんが言ってたもん…好
きな人の泣き顔も、
怒った顔も見てないようじゃマダ
マダだって…
心の裡を全部見せない男女は早々
に別れるんだって…
リンちゃんも言ってたもん…!
お兄ちゃんがいつも笑ってるのは
子供扱いで、
心を許してないんだって、そう言
ってたんだもん…!」
…姉さん。リン。あなた方はミク
になんと言うことをを吹き込んで
くれたんでしょう
…鬼か貴様等。
どうやら、姉さん達は僕がこうや
ってミクをあしらうだろうと踏ん
で、
先に対抗策を講じていたらしい
…まんまとそのシナリオ通り、自
ら事態を泥沼化させてしまったわ
けだが、
さてどうしたものか…。
ミクの感情が高ぶっていくのと反
比例して、
自分の思考がどんどん冷めていく
のがわかる。
僕は小さく溜息をついてから、泣
きじゃくるミクの肩にそっと手を
回した。
「わかったよ。」
言うが早いか、僕はミクの肩を掴
み無理矢理引き寄せながら
その小さな身体を寝台の上に組み
敷いた。
突然のことにミクはその涙に濡れ
た瞳を見開いたままフリーズして
いる
というより、いきなりの出来事に
困惑し、どうしたらいいのかわか
らないのだろう。
自分で言ったのに、実際手を出さ
れるとはまったく予想もしてなか
ったという表情
今度はミクにもわかるように仰々
しく溜息をついてから、僕は口を
開いた
「わかった。そこまで言うなら仕
方がないな。ミクの言うとおりに
してあげるよ。
そうでもしなきゃ、ミクは僕の事
信じてくれないんだろう?
笑顔以外がみたい?いいだろう。
思う存分見せてあげるよ。
途中で嫌だと言っても止めてあげ
られないけど
抱いてでもやらなきゃ僕がミクの
ことを好きだって、
そんな単純なことすらわからない
んだろう?
僕がミクのことをどれだけ大切に
思ってたか、どれだけ愛情を向け
て接してたか、
今まで全く伝わってなかったって
事だね。とっても残念だよ。悔し
いね。
僕はとんだ間抜けの道化役だった
ってわけだ。」
「そんな…」
怯えたような視線を向けながら、
それでも必死に否定しようとする
ミクを僕は無視した。
「オマエが言っているのは要する
にそういうことだよ。
プログラムでありながらそういう
感情的な思考が出来るというのは
…
まぁある意味賞賛されるべき事か
もしれないね。尊敬するよ。
旧式の僕には絶対真似できない思
考だ。
考えもしなかったよ。まさかここ
まで考える内容に差があったなん
て。
今までの僕の姿はどうだった?
兄としてオマエを妹扱いしている
姿はオマエにはさぞや無様にうつ
っていたんだろうね。
…どうした?なんだってそんな顔
をするんだ?
心配しなくてもいいよ。お望み通
り抱いて差し上げるよ。
今までのようにオマエを子供扱い
するつもりもない。
…僕はもう金輪際オマエをカワイ
イ妹だなんて思わないから。」
最後の一言に、たまらずミクの肩
が跳ね上がる。
敢えてその反応を黙殺し…僕は手
の甲でミクの頬を人撫でしてから
、低い声で囁いた
「これが自分の意志だというのな
ら、もう一度自分から強請ってご
らん?
もう妹扱いしないでくれって、そ
うしたら、僕はお前の願いを叶え
てあげるよ?」
「…ご…め…なさ……」
震える声はしっかりと聞き取れて
いたけれど、
僕はわざと聞こえない振りをして
小首を傾げてみせる
「何だって?もう一度大きな声で
言ってごらん?」
促され、ミクの上げた声は、まる
で悲鳴のようだった
「ご、ごめんなさい!!私…お兄
ちゃんの事信じてないなんて思っ
てないの!
そんなんじゃないの…だから、私
。
…その、お兄ちゃんの妹じゃなく
なるのは…イヤ、なの…」
「…うん。わかった。」
あっけらかんとした僕の反応に、
ミクはぽかんとその動きを止めた
。
「ミクがそんな風に考えるはずが
ないって重々承知してるさ。」
「…ふぇ?」
ミクは未だ状況が把握できてない
らしい。
怯えと、不安と、困惑といろいろ
な感情が入り乱れるその双眸に向
けてくる
僕はその視線を受けながら出来る
限り優しく微笑んでみた。
「だから、冗談だって。君が何も
わかってないなんて思ってないよ
。
君はこれからも僕の大切で可愛い
女の子だよ?
最初に言ったように、僕はミクの
ことが好きなんだ。だから君が嫌
がることはしないよ?」
ミクの身体を起こしながら、同時
に自分も起きあがる。
寝台の端に並んで腰掛けるように
してから呆然としているミクに向
けて言葉を続けた。
「…でもね。腹が立ったときは…
いじわるぐらいさせて貰わないと
ね」
ここでようやく事態を把握できた
のか、ミクは涙をためたままうつ
むいてしまった。
「ねぇミク。僕がミクに心を許し
てないだって?…そんなわけない
だろう?
リンちゃんやレン君、姉さんを信
じるなとは言わないけど…
不安になったら直接僕に聞けばい
いじゃないか。
そもそも僕がミクに嘘をつくはず
がないんだから…違うかい?」
「……違わない」
しゃくりあげながらミクは小さな
声で肯いた。
誤解は解けたみたいだけれど、
よほどのショックだったのか小さ
な震えと涙が止まる様子は見られ
ない
…うーん。さすがにやりすぎたか
。
僕は肩をすくめて、そっとミクの
前髪を掻き分けて…そこへそっと
唇を落とす
これが今彼女に出来る、精一杯の
恋人表現だ。
「ごめんミク。…今は、これで我
慢してくれないかな?」
顔を離すと、目の前には驚いた表
情のまま固まっているミクが見え
た。
しばしフリーズしたかのように動
かず、
やがて白いきめ細やかな頬に徐々
に赤みがさしてきて
涙の浮かんだ翡翠色の瞳は精一杯
見開かれていて、
そうして、ふっくらとした桜色の
唇が小さく息を吸い込んだと思っ
たら…
「お姉ちゃんすごい!」
「…はぁあ?」
想定外の言葉に、思わず声が裏返
る。お姉ちゃんってMEIKO姉
さんが…なんだって?
突然混乱の縁へと叩き込まれた僕
にはお構いなしに、ミクは恥ずか
しさ裏返しなのか
やたら高いテンションのまままく
し立てている
「お姉ちゃんがね、ここに入る前
に言ってたの!
『へたれなあいつの事だから、き
っと理屈こね回して本当に手は出
してこないから
安心しなさい。…キスの一つはし
てくるでしょうけど』って!お姉
ちゃんすごい!
すごいね!何でもわかるんだね!
」
「…」
…姉。あんたここまで読んでたと
いうのか…
あきれ果ててもはや声もでな……
……、
いや、待て。
あきれる前に、ちょっと今聞き逃
しちゃいけないこと、言ってなか
ったか?
「ねぇ、ミク。…ちなみに、その
言葉、何処で言われた?」
ミクは小首をかしげながら、素直
に答えた。
「この部屋の前。ドアのとこ…リ
ンちゃんとレン君と一緒に…」
ミクの言葉の終わりを待たず、K
AITOが素早い身のこなしでフ
ォルダから飛び出せば
そこには今まさに逃走を試みてい
る見慣れた三人組の姿があった…
各自コップや聴診器やら盗み聞き
におけるトラディショナルな代物
が握られており…
何をしていたのか明白すぎるほど
である
「あはは…いや、まさかあんたが
あそこまでミクにやるとは思って
なかったわー」
「自分チョードキドキしたッス。
にぃにぃって意外と大っ胆!!見
直したッス!!」
「そういえば、兄さんキスする時
に「今回は」って言ってましたよ
ね。
じゃぁ次回はいったい…」
思い思いに釈明になっているのや
らいないのやらわからない台詞を
吐く
三人組に対峙しながら、KAIT
Oは低い声で何事かをつぶやいた
。
「del/Q *.*」
「…ふえっ!?」
そうKAITOが言い終わるが早
いか、
リンの持っていたコップが音を立
てて砕け、データ片一つ残さず霧
散していく…
その不可思議な現象の理由に思い
至り、真っ先に顔色を変えたのは
MEIKOだった
「ち、ちょっと!何であんたがフ
ァイル削除なんか出来るのよ!!
」
「…この間隔離されてたウィルス
さんを助けた時に御礼に教えて貰
いました。」
「ちょ!?兄さんになにしてんす
か!…ってか、なんてもん教わっ
てんですか!!」
「大丈夫。ウィルスといっても全
然恐くないし、面白い方だったよ
助けてあげたら素直にネットに帰
って行ったし…
今度来た時こそ貴様の最期だ!っ
て言ってたし。
最近のウィルスさんはツンデレな
んだねぇ」
「にぃにぃそれ全然大丈夫じゃな
いよっ!!
ノートンせんせー!!ノートンせ
んせぇぇぇぇぇっ!!」
「…しかし情けは人のためならず
とは昔の人間は良いことを言う。
まさかこんな所で役立つなんて…
」
中空を見つめ、まるで舞台上で謡
うかのように素直な感想を述べて
から、
KAITOは視線を三人の方へと
向き直した。
「で?誰がヘタレの朴念仁で、八
方美人の女好きか…
貴方等の口からはっきり聞かせて
いただけますか?
とりあえず喋ったり歌ったりする
だけなら…その両手足は必要ない
ですよね?」
そう言うKAITOの表情は、輝
かんばかりの満面の笑顔。
「ちょっ!!にぃにぃ…ほ、本気
!?」
「何を言ってるんだい、リン。僕
はいつでもどんな仕事だって本気
でやってるだろう?」
人の良さそうな笑顔の中に、隠し
切れない不穏な気配が滲む。
そんなKAITOの変化に気圧さ
れたMEIKOが思わず一歩と後
ずさる
「…KAITO…まさか、姉弟機
を手にかけるなんて、
そんな馬鹿な真似…しないわ…よ
…ね?」
「いやだなぁ姉さん。……先に喧
嘩売ってきたのはそっちだろうが
。」
MEIKOの願いもむなしくつい
にKAITOの口調が変わった。
その瞬間の形相に、リンとレンは
震え上がり…
本人曰く。ウィルスさんに教わっ
た「問答無用のファイル消去」と
いう荒技を駆使すべく
KAITOは再び低い声で何事か
を呟きだした。
VOCALOIDの本業である歌
を応用したその演算処理は
端から見れば、何やら怪しい魔術
に使われる呪文のようにも聞こえ
てくる…。
今度こそ三人を逃すつもりはない
のだろう。
先程より遥かに長くそして複雑な
コマンドラインを詠唱するKAI
TOだったが、
そのあまりの複雑な演算内容にK
AITOの外観データが耐えきれ
ず、
濃青の瞳と髪が明るいライトブル
ーに発光しはじめる。それだけで
はない。
その処理にメモリリソースを奪わ
れた周囲のデータが次々と
フリーズを起こし、まるでKAI
TOの立つその周辺だけが色を失
い、凍り付いていく…
もはやこうなっては、いくらパワ
ー自慢であろうが近づくことすら
出来やしない。
そんな兄の暴走に、三人に出来る
ことはただ一つ…
MEIKO、リン、レンの三人は
顔を見合わせると、我を先にと逃
げ出した!!!
フォルダの外でいくつもの爆音と
悲鳴が響き渡る中、
ミクは一人寝台の上に座り込んで
いた。
乱れた敷布の上でぽけーっと天井
を見ていたかと思うと、
突然何かを思いだしたかのように
慌てだし、
抱いた枕に顔を押しつけ赤面する
。そしてしばらくすると、
ふらっと体を起こして再び視線は
天井へ…
そんな不審な行動をとる乙女の端
に、
丸まるとしたぬいぐるみのような
プログラムがやってきた。
顔を押しつけていた枕の脇からそ
の姿を見つけたミクは、ぱっと枕
を放り投げると、
その二頭身プログラム、はちゅね
みくを、きゅうっと愛おしそうに
抱き締めた。
「あのね!あのね!はちゅねちゃ
ん!!
今さっきね、とっても良いことが
あったんだよ!!」
外から聞こえる、とても良いこと
の後とは思えぬ断末魔の叫びと、
原型(オリジナル)の幸せそうな
表情がどうしても結びつかず、
はちゅねは困ったように首を傾げ
た。
めでたしめでたし。(ミク的には
)
冒頭の詩はマザーグースのWha
t are little boys made of?から
男の子はカエルに、カタツムリに
、子犬のしっぽ、
女の子は砂糖に、スパイスに、素
敵なものすべてでできている。と
いう歌です。
ちなみに、第1節と第2節が有名
なこの歌には実は3節と4節が存
在しており
第3節では若い男が何で出来てい
るか歌ってます。
「ため息に、横目に、そら涙」だ
そうです。
第4節では若い女性となってます
が…
気になる方は検索してみれば簡単
に見つかると思います。
うん。内容についてはコメントが
しようにないので豆知識でうめて
みた(酷)
やっぱり…うちの兄さんはSかも
しれん…
最後になってしまいましたが
制作許可をくださった 満月だんご様に最大限の感謝を…
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