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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2024 . 04
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    お礼SSに載せていたカイミク話です。
    ミクさんがやってきたばかりの兄妹1年生話。カイ←ミク




    初音さんと流れ星


    「…アレは何をしてるの?」
    怪訝な顔で姉さんが僕に問いかけてきた。

    ふと顔を向ければ、姉さんの視線の先。僕らに用意されたフォルダの外で
    ミクが上を見上げたまま、ぴくりとも動かず座っている。
    「さっき、私が仕事行く前からアノ状態だったのよ
    フリーズしてんのかと思ったけど、時々は動くみたいだし…ほら」
    姉さんの言うとおり、じっと動かないのは身体だけで
    山深い湖沼のような複雑な碧色のツインテールが、
    時折、きょろきょろと何かを探しているかのように動いているのが見える。
    「…僕に聞いて分かると思うんですか?」
    「それもそうね」

    エンジン部分から新しく開発された最新型の妹は、
    サッポロが想定していた単なる音源という立場から飛び出して
    周囲の様々なキャラクターを手当たり次第に飲み込み続け、いつの間にか
    未だかつて誰も見た事の無いような、ネット上の「アイドル」となっていた。
    そんな彼女は、常に押し寄せ続けている大量の仕事のせいか、
    それとも彼女の元々の性質なのか、単なる作り物(アプリケーション)とは
    思えぬほどに複雑な感情を持っている。
    唯でさえ、感情の機微やらなにやらをすべてユーザーの操作に任せてしまった
    僕ら(VOCALOID1)と、元から可愛くなるように設定されたミクとでは
    基本の設計やら何やらが異なるのだから仕方がないのだけれど…

    姉さんも僕も、そんな様々な意味で規格外な妹を若干持て余していた。
    くるくる変わる表情や、その場に応じてコロコロ変わる感情の機微なんかは
    僕らの鈍い思考回路ではとても追いくことができないし
    今のように、僕らには理解できない突飛な行動をとられると…
    僕らはどうやって振る舞ったら良いのか、わからなくなってしまうのだ。


    「…気になるようなら、直接本人に聞いたらいいじゃないですか」
    「嫌よ」
    無難と思って提案した内容は即座に拒絶される。
    「あの子、何考えてるかよく分からないんだもの
    優秀だって事はわかるけど、あの得体の知れない思考に巻き込まれて、
    私がフリーズでもしたら、後の仕事に触るじゃない」
    良くも悪くも仕事至上主義者な姉さんらしい主張。
    妹機より仕事を優先させるなんて、冷たく聞こえるかもしれないが、
    オクハンプトンや僕といった鳴かず飛ばずのVOCALOIDシリーズを
    長い事ほぼ一人で支えてきた彼女が、途方もない苦労の果てに見いだした
    己の見地(スタンス)なのだからしょうがない。
    加えて、ミクの登場後、姉の仕事は減るどころか益々増えてきている。
    そんな今までに無い環境の変化の最中、もともと複雑な思考処理が苦手で、
    更に仕事に関しては殊更完璧主義的な姉にとって、
    この何とも掴みがたい存在であるミクのお相手は、
    予想以上に負荷(ストレス)がかかる作業なのだろう…
    「…それを言ったら、僕も彼女との思考のギャップは…」
    「いいじゃない、あんたなんか妙に懐かれてるんだし。」
    無駄とは知りつつ口を開いた僕の言葉を、案の定遮って、姉さんは胸を張った。
    「それにね。あんた、表出てきたって未だろくな仕事もしてないんだから、
    こんな時ぐらい動かないと錆びるわよ?」
    「…。」
    悪気がない発言だってのは分かってるけど、何だってこう胸に刺さる言葉を…
    「アプリケーションは錆びませんよ」
    あっけらかんと笑う姉さんを前に、僕は立ち上がりながらそう返すのが精一杯だった。


    「…何をしてるんだい?」
    背後から声をかけると、ミクは満面の笑みをこちらへ向けてきた。
    「あ、お兄ちゃん!!あのね、私。流れ星さんをさがしてるの!」
    声をかけただけなのに、今にも高らかに歌い出しそうな表情でミクは飛びついてきた。
    そして、濃青に染まる上方を見上げ、そこに輝く白い点へと指をさす
    「あのね、流れ星さんがお願い事をかなえてくれるんだって
    そう言う歌があったの!!あ!あの、昨日マスターさんに聞いたんだよ!
    お星さまってアレでしょう?お空に輝いてるピカピカしてるのなんだよね
    でも、太陽と月は違うんだって。別のマスターさんが教えてくれたの!
    あのねお空から時々お星さまが落ちてくるから3回お願い事を唱えるの
    そうすると願い事をかなえてくれるって!だから流れ星さんを探してるんだよ。
    でも、昨日からお星さまをずっと見てるんだけど、落ちてこなくって」

    話順を無視してまくし立てる(彼女が興奮するといつもそうだ)
    ミクの勢いに圧倒されながら、僕は彼女の話を整理してみる。
    ええと…どうやら彼女は流星が見たいようだ。…しかも、この場所でだ…
    「…ここじゃ、流れ星は見られないと思うけど…」
    「ふえぇっ!?だ、ダメなの?」
    さっきまでの明るい表情は何処へやら
    愕然とするミクの表情に、僕はどう答えるべきか困惑する。
    いや、真実を伝える事が最善手には違いないのだけれど…

    「…うん。あれは『星』じゃなくて、上の階層に置かれてるコンテンツだよ。
    そもそも、僕らの上に広がってるアレは…『空』じゃないだろう?」



    僕がそう指摘した事で、ミクはひどく落ち込んだようだった。
    それでも、直ぐに立ち直って、仕事上でも真面目に歌っているようだったから
    姉さんは「心配ないわよ」とたいして気にしてないようだったが…

    ミクと姉さんが仕事に出かけてしまったフォルダの中で、僕は一人
    幾重にも開かれた窓(ウィンドウ)に向かっていた。
    ブラウザと首っ引きで調べているのはミクの探す「流れ星」についての情報だ。
    嘘か誠か常におびただしい量の情報であふれかえっているWeb百科事典には
    「流れ星」の概念から定義から、その仕組みまでもが整然と陳列されている。
    そもそも流星とは、夜間に天空のある点で生じた光が一定距離を移動して消える
    天体現象をいい、流星物質が地球の大気に衝突、突入して発光するものだという。
    そして流星物質として考えられている有力候補は、彗星や小惑星の塵(ダスト)らしい
    「ダストか」
    ウィンドウから視線をあげて、僕は呟く
    ふと閃いた内容を何度かシミュレートし、実現可能性を検証してみる
    …案外、悪くないかもしれない
    目の前のウィンドウを消して、僕は立ち上がった
    屑(ダスト)が星になるだなんてなんとも素敵な話じゃないか。


    「あ、あの…」
    後日仕事から戻って来たミクを、僕は強引に連れ出した。
    向かったのは普段暮らすVOCALOIDのフォルダよりだいぶ下層の領域。
    日頃見慣れた光景に比べ、暗く、静まりかえっている周囲のせいか
    それとも、理由も告げられずこんな所に連れ出されたせいか
    ミクは不安そうな表情を浮かべている。
    そんな彼女の仕草に、あえて気付かないふりをしながら僕は口を開いた
    「ミク。ここは人間の手で仮想的に造られた世界だ。
    あれは、空ではないし、ここに浮かんでるのはすべて情報であって星じゃない。
    ミクの探してる流れ星は現実空間でしか見る事ができないんだ」
    「う、うん…」
    僕の半歩後ろから、ずいぶん元気のない答えが返ってくる。
    やはり、表向き隠してはいても、実際は先日の一件を引き摺っていたらしい
    複雑な彼女の思考を看破できていた事に、ずれているとは自覚しながらも、
    口角が少し上がってしまう。

    「でもね。ここでは現実にある仕組みを、模倣する事はできるんだよ」
    事前につけておいた目印(マーカー)の上で足を止め、無言で天を指させば
    澄み切った翡翠色の視線が、不思議そうに天を向く…

    「C:\>runas /noprofile /user:xxxx\administrator...」

    ミクが顔を上げたタイミングを見計らい、
    僕はあらかじめ用意しておいた実行ファイルを唄(コマンド)で叩き起こす。
    幾つか上の階層に仕掛けたそのプログラム達が鈍い音と共に震えると
    手順の通り次々と星を吐き出し始めた

    …まぁアイディアとしては単純きわまりない内容で
    要はここより上層の一点から、もう使い道の無いようなデータの欠片を
    360°あらゆる角度に次々と発射させているだけなのだけど、
    データ片が発射の勢いに耐えきれず、キラキラと崩壊していく様が
    大気にぶつかって発光する本物の流星の様に見えるようには調整してある。

    「は、わ、わわわ…」
    目を丸くするミクのその目の前で、
    幾筋もの流れ星が豪雨のように降り注いでいく
    その勢いは幾筋もの閃光が、辺り一面を覆い尽くすような有様で…
    星の流れが収まって、再び周囲が薄暗さを取り戻した後なんて
    目が眩んで近くの物さえ判別できないような状況になってしまった。
    うん。これは…流星群というより、花火だな。
    ミクでも目視しやすいように実物より発光秒数を長目に
    かつ、星の量を増やしたのが裏目に出たかもしれない

    「……お、おにいちゃん…」
    目を擦るようにしながら、ミクが困惑した面持ちでこちらを見上げてくる。
    流石にこれではミクの期待に答えられなかったか
    喜んで貰うために創った仕掛けだけれど、かえって困らせてしまったのか?

    「びっくりして…流れ星さんにお願いするの、忘れちゃった…」
    「…。」
    予想外のミクの言葉に、
    僕は何かを言おうと口を開きかけ、そのまま何も言えずに口をつぐんだ。
    もう一度やろうにも、集めたデータ片は使い切ってしまった。
    そうとなったら新たにデータ片を集めてくるしかないワケだけど…
    思案する僕の横顔をどうとったのか、ミクは慌てて頭を下げた
    「ご、ごめんなさい!お兄ちゃんがせっかく用意してくれたのに!」
    「あ、いや…いきなり実行した僕も悪かったよ。
    ちゃんとミクに説明してから実行すれば良かったんだよ」
    というか、僕がミクの目的を覚え違えていたのがまずかったんだ。
    ミクの目的は「流れ星にお願いを言う」であって
    単に「流星を見る」では無かったわけだ。

    「ちょっとまってて。今すぐ、もう一度用意して…」
    更に下層へ降りれば、まだ星の素になりそうなデータ片が転がっているだろう。
    取りに行こうと踵を返した僕だったが、ふと片腕に抵抗を感じて足を止める
    …見ればミクが僕の片袖を引っ張っていた。
    そのまま翡翠の瞳と視線を合わせれば、ミクは微笑んで小さく首を横に振った。
    「ううん…あのね、きっとね。わかってたら意味がなかったの。
    きっと…願い事を3回いうとって…いきなり振ってくるから…
    その、流れ星さんが今みたいにいきなり振ってくるから意味があるんだって…
    そう言う事なんだって、今の流れ星さん達を見て…そんな風に思ったの」
    言葉を止め、自らを落ち着かせるように小さく息を吐いてから、
    ミクは慎重に、一生懸命言葉を選ぶようにして、再び口を開いた。

    「いきなり振ってきて…直ぐ消えちゃって…
    そんな間に3回言えるって…きっとすごくすっごくいつもいつも
    ずーっとその願い事を考えてないと、できないことだよね?
    だから、それだけ強く願ってれば…きっと叶うって事なんじゃないかな
    ビックリして今は忘れちゃったけど、これからはずっと覚えてるよ?
    そしたら、きっと、願い事。叶うんだよね!」
    興奮で頬を赤らめながら、ミクは嬉しそうに語っている。
    姉さんや、サッポロの想定を遥かに飛び越えて、尚も拡大を続ける電子の歌姫。
    どんな望みだって、彼女ならきっと叶えてしまうに違いない。
    何処か確信めいた予感を感じながら、僕は苦笑した。

    「…ところで、ミクの願い事って、どんな内容なんだい?」
    「ふえ!?」
    何気なく発した僕の一言に、ミクは俯き沈黙してしまう。
    「あ、いや…言いたくないなら別に…」
    改めてこの妹との付き合いの難しさを実感していた僕の前で、
    碧色の髪が左右に揺れた。

    「あの……お兄ちゃんと、一緒に、たくさん歌えますように…です…」

    ささやくように言ったミクの背後で、
    星が一筋、流れたように見えたのは…僕の錯覚だったのだろうか。
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