お題:『ボタン』『青』『布地』
ミクはひどく慌てていた。
衣装についた飾りボタンの一つが
兄のマフラーに引っかかってしまったのだ。
刻一刻と迫る収録時間に追い立てられ、
器用とは言えない指がもつれてしまう。
布地が裂けた音に我に返れば、平然とした兄の顔。
「取れたよ」
視線の先には無傷の衣装と、彼自身で引き裂いた青い糸くず。
(140文字)
ちょっとこわい兄さん
お題:『リスク』『短歌』『意識』
平然と座するルカだが、その意識下は平穏とは言い難い。
まさか自分に競技カルタの仕事が来るとは…
「難波津に咲くやこの花冬籠り今を春辺とシャクヤクノハナ」
覚えたとおりに詠んだはずなのに何故か会場がざわめいた。
きょとんとするルカに、がくぽがそっと耳打ちする。
「今を春辺と 咲くや この花」
(140文字)
『リスク』が文中に出てませんが、バイリンガルVOCALOIDに
カルタの読手やらせること自体がリスクって事で…。
難波津の歌は百人一首の競技前に詠まれる序歌です。
クールでいつも仕事は完璧なのに、時々すっぽ抜けるルカさんが好きです。
狂言の『土筆』鑑賞記念。
お題:『液晶』『トランク』『黄』
トランクに押しこまれたミクを見ながら
覆面をつけた黄色のサイドテールがうつむいた。
周囲の同僚に急かされ助手席へと乗り込むが
彼らと一緒にはしゃぎ廻る気分にはなれない。
手持ち無沙汰になったネルは、何とはなしに
愛用の折りたたみ式の携帯を開く。
液晶画面に反射した青色に、ネルは目を見開いた。
(140文字)
踏ん切りのつかない誘拐犯と狙われた歌姫。
そして容赦しない兄の日常光景。
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