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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2017 . 12
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    忘憂の物:憂いを忘れさせてくれるものという意味で、酒のこと。
    単に「忘憂」ともいう。 類語:酒は憂いの玉箒(たまははき)


    某所で呟いてたMEIKOさんと『彼女』のお話

    ※亜種と脇役ですがオリキャラが出てます



    MEIKOさんと忘憂の友


    多くの情報が行き交う賑やかなメインストリートから外れた、
    うらぶれたローカルネットの一角にその店(フォーラム)はあった。
    無機質な背景にぽつんと浮かびあがるのは、薄汚れた木戸と
    【Tipsy Hussy(ホロヨイムスメ)】と書かれた小さなネオン看板。
    扉を開けた先には、年代を感じさせるカウンターと、
    小さなソファー席が4つばかり設えられた、穴蔵のような内装が広がり
    よくある『場末のバー』というイメージを濃厚に反映させた作りになっている。

    そのカウンター内で常にグラスを磨いている店主(モデレーター)は、
    ロマンスグレーと呼ぶにふさわしい、初老を少しばかり過ぎた男性だ。
    しかし、外観がそのまま本人の真の姿を現しているかは誰にもわからない。
    ここはネット上。この店主も店の内装に合わせたステレオタイプ的な
    バーテンダーの外見を騙っているだけかもしれないのだ。

    だが、表通りの巨大フォーラムやbbs、blogなどで繰り返される議論、討論、
    その果ての炎上騒ぎ等々と完全に隔離された、このような「寂れた」場所は
    それだけで価値のある存在であるらしい。
    この素性の知れぬ店主の店(フォーラム)は常に満席、とは行かないまでも、
    なじみの客が、しばしの落ち着いた雰囲気を楽しむ隠れ家として繁盛していた。

    そして、彼女もまた…


    先程収録し終えたばかりのメロディラインを口ずさみながら、
    MEIKOは一人、上機嫌でローカルネットを歩いていた。

    彼女の不肖の弟機KAITOが、どういう因果によってだか作りあげてしまった
    VOCALOID用気軽にお外(ネット)へ出られるプログラム。
    それが制作者KAITOの手を離れ、いつの間にか彼女の妹達に広まり、
    挙げ句の果ては日常的に使用されるようになってしまった後になっても、
    MEIKOは仕事以外の理由でサッポロのM/F(メインフレーム)から出る事を
    頑なに拒否しつつづけてきた。
    人間に無断でネットをうろつく等、彼女独自の「正義感」が許さなかったためである。

    しかし…あるモノの存在が、そんな彼女のポリシーを180度変えてしまう…


    カランと、扉に据え付けられた古めかしいドアベルが鳴り響く
    と同時にMEIKOの嗅覚に場に染みついた煙草の複雑な匂いを感知した。
    しかし、どうやら客は他に居ないようだ。この店主の趣味であろう
    店内に流されている古いジャズの名曲以外、彼女の聴覚を刺激するものはない
    「いらっしゃいませ」
    薄暗いカウンター内から、いつものように初老の店主が静かに微笑んだ

    「カウンター、いいかしら?」
    「どうぞ。こちらへ」
    MEIKOは勧められた革張りのチェストに腰をかけ…と、
    その仕草に、店主はにこやかな笑みを崩さぬまま静かに口を開いた。
    「ご様子から察するに…既に楽しい時間を過ごされてきたようですね。」
    「あら、やっぱりわかる?」
    革張りのメニューを受け取りながらMEIKOは嬉しそうに笑った。
    「ずーっと関わってた仕事の打ち上げだったのよ
    2次会まで付き合ったんだけど。突然マスターに会いたくなっちゃったの
    打ち上げでみんなで飲むお酒も美味しいけど、ここで飲むお酒はまた別格。」

    そう。MEIKOをネットへと駆り立てた物は「酒」である。
    「何処で飲んでも同じでしょう」と怒る弟を
    「屋外のアイスがうまいって言ったのは何処の誰!」と沈黙させ、
    近隣の飲み屋MAPを作成すること早幾月。
    もはや、どこぞのグルメガイドに匹敵するほどの情報量を仕入れたMEIKOの
    最近のお気に入りが、この店だった。

    「それはそれは。大変嬉しいお言葉ですが…深酒は感心しませんね
    特に貴方のような若いお嬢さんとなれば尚更のこと」
    口調は柔らかくも、嗜めるような店主の台詞に、MEIKOはクスリと笑う。

    MEIKOはどちらかと言えば「古参」のアプリケーションだ。
    その素性を知るものであれば、あえてキャラ付けをしている場合はともかく、
    彼女を「若い娘」呼ばわりする者はほとんど居ない。
    だが、ここの店主は客の素性を尋ねると言った野暮な事を行わないため、
    「日本初のVOCALOID」「初音ミクの姉」「ベテラン歌姫」といったMEIKOに
    関する様々な先入観を一切持っていないのだ。
    MEIKOは、そんな店主の反応を、何処か新鮮で、くすぐったく、そして心地よく感じていた。
    今も、この店主は、客と店主という立場の壁はあれど、
    真剣にこの自分の身を案じてくれているのだろう

    少し火照った頬をごまかすように、MEIKOは殊更明るい声をあげる
    「お酒に害はないわ、罪があるのは泥酔する人の方よ」
    「その言葉…元ネタはフランクリンですね。」
    間髪入れずに返された言葉に、鳶色の瞳が輝いた
    「あらぁ!マスターったら流石に博識ね!
    格好いいから、外部メモリに接続した時間は無かったことにしてあげるわ」
    「恐れ入ります」
    軽口にも丁寧に頭を下げる店主に苦笑してから、MEIKOはメニューをめくる
    「大丈夫よ、こう見えても身の程はわきまえてるから
    打ち上げっていっても、一件目はほとんどソフトドリンクだったし…
    だいたい酒の味がわからなくなるほど酔ってたら、そもそも来たりしないわ」
    少し黄ばんだメニューに羅列された銘柄を指でなぞりながら、
    MEIKOがオーダーしようとした、ちょうどその時だった。


    カラン。と入り口のベルが鳴り響いた。
    「…いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
    MEIKOから少し離れたカウンターの端へと、店主が客を誘う。
    と、背後を通り過ぎた強いアルデヒドの香りに驚き、MEIKOが視線を向けると、
    長い銀髪の…何処かくたびれた雰囲気を漂わせる女性が
    力なくカウンターに崩れ落ちていく

    「以前のご注文で変更ございませんか?」
    「………は……ひっく………はひ…………」
    「畏まりました。」
    店主の言葉に応える呂律の回りきらない台詞とアルコールで完全に潤んだ瞳
    そして、隠しようがないアルデヒド臭…
    来店前から随分飲んでいたに違いない、完全な酔っぱらいがそこに居る。
    しかし、どうやらまだこの女性は飲み続けるつもりらしい
    店主が持ってきたのは、とにかく安さが売りの合成ウィスキーのボトル。
    味や香りを楽しむ…と言うより、少量で酔う、もとい『悪』酔いできる一品を
    その女性は無造作に目の前のグラスへ注ぎ、そしてなんの躊躇いもなく、
    いきなりそれを呷り始めた

    「…マスター、あれは?」
    「あぁ、あの方ですか。」
    女性の何とも言えぬ異様さに圧倒され、思わず声を潜めるMEIKO
    尋ねられた店主も、何処か困ったように、その笑顔の眉だけをハの字に曲げる。
    「プライベートは存じませんが、大分前にもお一人でいらっしゃった方ですね。
    その時も泥酔されていたので…ああいった物はお出ししたくないのですが…」
    「…そもそもあんな安酒、あんな飲み方したら確実に悪酔いするじゃないの」
    「ですが…銘柄もお客様からのご注文ですので…安いものを。と」

    MEIKOは再び視線をカウンター奥の女性に向けた。
    相変わらず、女性は突っ伏しながら、泣きそうな顔でグラスを傾けている
    こちらに注意を向けている様子はない。むしろそんな余裕すらないのだろう。
    とても酒を楽しんでいるとは思えない状況に、MEIKOは思わず顔をしかめる
    「あれ。注意してあげたほうがいいんじゃないの?」
    「一度雑談ついでに嗜めたのですが…色々ご事情があるようですから」
    言葉を濁す店主から、MEIKOは三度女性の方へと視線を向け直した。
    そう。この店の主は客の素性を尋ねると言った野暮な事はしないし、
    プライベートに深く入り込むこともしない。
    ここはあくまで、ネット上で落ち着いた雰囲気と酒を楽しむ
    「場末のバー」であって、どこぞの人生相談フォーラムではないのだ。

    MEIKOはしばし思案した後、メニューを閉じた。
    「…マスター。今日のウィスキーでオススメは何?」
    「グレンフィディックの12年は如何でしょう。
    軽い飲み口で、女性にもお勧めできるシングルモルトです」
    淀みなく答える店主にMEIKOはにこやかに頷いた。
    「じゃそれをちょうだい。私はトワイスアップ…それから…」
    「あちらのお客様はストレートがお好みのようですね」
    「…ふぅん。まぁいいわ、それで出したげて。」


    コトリと目の前に置かれたグラスに、彼女は半分閉じていた赤い目を開いた。
    「あ、……あ…の…私、たのんでな…」
    「私が頼んだのよ。」
    どさりとMEIKOが座ったのは、酔いどれる女性の隣席だ。
    近づいてよくよく見てみれば、こんなバーの片隅で酔いつぶれているのが
    信じられないほどまだ若い外観をしている。見た目だって、悪くはない。
    鬱屈とした雰囲気が、遠目から見た彼女を酷く老けさせているのだろう。

    突然現れた謎の隣人に目を丸くする女性をMEIKOは一喝した。
    「こんな所来て悪酔いするような酒浴びるように飲んでるんじゃないの!
    せっかくお金出してるんだから、もうちょっと真っ当に味わいなさい。」
    「え、………あ………ご、ごめんな…さい」
    いきなり怒られ、訳のわからぬまま、それでも女性は頭を下げる。
    「あら、礼儀はそれなりに知ってるみたいね。
    じゃぁ…こういうとき、どうするかわかるかしら?」
    そう、にっこり笑ってグラスを差し出すその様は、表面上とても穏やかだ。
    しかし、どこからともなく…まるで機嫌の良い雌虎が伸びをしているかような
    言いしれぬ威圧感を感じるのは…何故だろう

    「え……あ、は、はひ……」
    女性は慌てて、出てきたグラスを受け取ると、
    小刻みに震える手で、それをMEIKOの差し出しているグラスへと向き合わせる
    「ハイ、乾杯!」
    「か…かんぱい……」
    流石に、先程までの安酒とは質が(金額的な意味かもしれないが)違うと
    気づいたのだろう。ちびちびと、舐めるように味わう女性を見て
    MEIKOは満足そうに頷いた

    「で、どう?」
    唐突な問いかけに、女性の肩が跳ね上がる
    「え!?あ…あのぉ……そ、そのぉ…ウィスキー…の味がします……」
    その答えにMEIKOは呆れて首をふった
    「…。安酒飲んでぐたってるから、案の定鼻と舌が死んでるわね」
    「ご…ごめんなさい……」
    「マスター!チェイサーちょうだい。」
    マスターに差し出された水を取るとMEIKOは、
    これで口の中洗いなさいと女性の方へとそれを押しつける。
    無理矢理水を飲み込まされ、再び黄金色のグラスを手に取った女性は
    意を決したようににそのグラスに顔を近づけ…ふと、虚を突かれたように目を開いた。
    「…あ…れ……?…いい……香り…」

    MEIKOがしてやったりと言う表情をカウンターへ向ければ、
    カウンター奥でグラスを磨く店主も、何処か同じような表情をしている。
    「あのね?何があったか知らないけど、もっとお酒は楽しまなきゃ。
    あなた、そのお酒の味と香りがわかるんだから、もったいないわよ!」
    「そ、そう…ですか……」
    おどおどと居心地悪げに座り直す女性を尻目に、MEIKOはどんと胸を張った

    「そうなのよ!!…いいわ、二度とあんな馬鹿げた飲み方出来ないように
    今日は貴方に美酒の味ってモノを伝授してあげる。
    マスター、あたしのお気に入り全部、ここにもってきて!!」
    「え…え……で、でも……私……お金……」
    「んなもん、私が全部出すわよ!!せっかく良い舌もってるのに
    あんな惨めな飲み方してる子ほっとけるわけないでしょ!?」
    「え、あ、でも…やっぱり……」
    どこか、否定的な女性つぶやきにMEIKOの片方の眉が跳ね上がり…

    「なぁに?あんたあたしの酒が飲めないって?」
    笑顔のまま、だが、その瞳は笑わぬウワバミを目前に女性の表情が凍り付く
    「…え、えぇ!?…あ、いや…その……い、いただきます…」
    「うふふふふ…さぁ飲むわよ!!
    さっきの打ち上げ、未成年が居たから本領発揮できなかったのよねぇ~」
    もはや強要以外の何者でもない語り口だが、
    残念なことに、ここにMEIKOを止められる者は居ない。

    突然この暴風に巻き込まれた女性は、ぼんやりとしたまま
    目の前に並んでいくボトルを眺めることしかできなかった


    「で、なんであんな無茶飲みしてたの」
    最初の杯が空になった頃、MEIKOは機嫌良く2杯目に口をつけた女性に尋ねた

    「………え」
    「え。じゃないでしょ。男にでもふられたの?」
    カクテルグラスで出されたトリュフチョコを口の中に押しこめば、
    深い苦みとそしてしっとりとした甘さが広がる。
    隣に座る銀髪の女性もそれに倣いながら、うつむいた調子で静かに口を開いた。
    「……………いえ………その………仕事…………失敗して…」
    若い女性が、あれほど荒れていたにしては、弱い動機にMEIKOは首をかしげる
    「仕事ねぇ…そんないつも上手くいくことばかりじゃないでしょ?」
    乱れた髪をそのままに、女性は小さく、力なく首を横に振った。
    「…その…自分…仕事、向いて……なく……て…無理…なの…わかって…て…
    …いい加減…あきらめろって…事なのかなって……あ、あは…ははは…」
    単に仕事上の失敗。と言うわけではなく、この女性が悩んでるのは、
    そもそも自身のついている仕事が己に向いているのかどうかという
    なかなかに深く、そして切実な問題だったらしい
    女性自身は、どうやら自分に向いていないという結論に至っているようだが…
    辛そうな笑顔のまま乾いた笑いを続ける女性を、MEIKOは痛々しげに見つめた
    「…でもあんたは諦めたくないんでしょ?」

    「…え?」
    ぽかんと、笑い声を止めて、潤んだ赤い瞳がMEIKOの方へと向けられる。
    「だから、え?じゃないでしょ。自分のことでしょう?
    諦めた方が良いって本気で思ってるなら、こんな所で酒なんか飲んで
    ぐだついてなんかいないわよ。とっくの昔に今の仕事に見切りつけて、
    新しい仕事探してるに決まってるでしょ?違う?」
    「………でも……わたし……」
    「あんたが何の仕事してるかとか知らないし、聞くつもりもないけどさ
    諦めようと思ってそこまで凹むぐらいなら、絶対辞めちゃダメよ
    上手くいく、いかないは置いといて、やれるだけやってみなさいよ!」
    「…で、でも………み、みんな……ツ、ツマンネ…とか…い…言うし……」
    煮え切らない女性の態度に怒り、MEIKOは拳をカウンターに叩きつけた。

    「あのねぇ!!今は誰の話してるの?あんた自身のことでしょ?!
    周りがどーのこーのとかさ、結果がどーのとか、全部無視!
    いま、あんたが持ってるもの、全部その仕事にぶつけなさいよ
    あんた、その仕事に誇りとか、夢とか、希望とか持ってるんでしょ?
    全力でぶち当たるのよ。例え最後に砕けたって、絶対、何かが残るから!!」
    「…………う」
    圧倒され、うつむいてしまった女性を気遣うようにMEIKOは優しい声音で続けた。
    「思う一念岩をも通すっていうでしょ?
    あたしも、色々辛いことあったり、もめたり、悲しい思いもしたけど…」
    琥珀色のグラスを傾けながら、MEIKOはそっと瞼を下ろす
    「信じる道を無心で突っ走ってきてよかったって、胸張って言えるわ。
    ま、そのぶん後悔もあるっちゃあるんだけどねぇ」
    「………でも………そんな……」
    「あんたなら出来るわよ。自信持ちなさい。
    あたし、人を見る目はあるんだから………たぶん」
    不安な語尾は、己が全否定した青い陰がMEIKOの脳裏をかすめたからだが、
    幸い女性はそのことについて気にしなかったらしい。

    何か考え込むように自身のグラスを見つめる肩を、
    MEIKOはぽんぽんと慰めるように叩いた。
    「辛い目合ったら、またココに来なさい。
    おねーさんが責任もって愚痴でもなんでも聞いたげるわ」

    「……………………?」

    突然訪れた謎の沈黙に、MEIKOは首をかしげた。
    女性の顔を見れば考え込んでいると言うよりは、固まっているといった表情。
    今までの話の流れ的に、女性が固まるという状況は思い出せないのだが…

    居心地の悪い沈黙が続くなか…はっと我に返った女性は、
    何処か信じがたいものを見るような目で、MEIKOの方へと視線を向けた。

    「え、あ………聞いて…くれるんですか……私の…話……」

    「?…ええ。いくらでも聞くわよ?人でうだうだ悩むより、
    ばーっと愚痴っちゃった方が楽でしょ?あ、でも、次からは割り勘ね」
    茶化しついでに釘を刺してみるが…女性の表情は変わらない。
    いや。むしろ、その赤い瞳がどんどんと潤んでいき…
    小刻みに震えていた手が、思いもよらぬ早さでMEIKOの手首を掴んだと思えば

    「…聞いて…相手して……もらえる……私……う、うぐっ、う、うううう…うあああああ!」

    たちまち女性の顔がゆがみ、次の瞬間大声で泣き始めていた。
    その大人とは思えぬ泣き様に…しばし呆気にとられていたMEIKOだったが
    やや間を取って、気を取り直し、拘束されなかった方の手で、
    銀色の頭頂部を子供をあやすように撫で回していく
    「…やだもう、あんた泣いてるの?よっぽど人恋しかったのねぇ
    ほらほら、おねーさんがどーんとついててあげるから!泣かないの!!」

    「う、うううう、うぐっひぐ…う、うああぁ…は、はなし…き、きいてぇ…」
    「聞いたげるわよー!どーんときなさーい!!」
    「う、うああああああ、や、やめたくないよぅ…びっぐになりたいよう…!」
    「なれるわよー!あんたならびっぐになれるわよー!!」
    「う、ううううう、は、はじめて、いわれた…う、うあああああああああ!」
    「あははは!あんたよっぽどともだちいないのねぇ!ほらなーかーなーいーの!」


    寂れたローカルネットにある小さな店【Tipsy Hussy(ホロヨイムスメ)】
    年代を感じさせるカウンターと、小さなソファー席が4つばかり設えられた、
    穴蔵のような店内には、店主が趣味とする古いジャズの名曲が流れている。

    そんな薄暗いバーの片隅で、店名からいろいろな意味で逸脱した、
    女性二人による美しき友情の芽生え(?)を目の当たりにした店主は、
    その笑みを崩すことなく、表に掲げられているネオンの電源をそっと落とし…
    そして古びた木戸の前に小さなウィンドウを置いた。

    『本日 営業終了致しました。 またのご利用お待ちしております』





    「いい加減、自分の立場わきまえてくれませんか?
    ベロンベロンになっての朝帰り。しかも入り口から服を脱ぎ散らかして…」
    通路のそこかしこに散乱する姉の遺留品を拾い上げ、
    KAITOは背後に控えるミクの持つ洗濯カゴへと放り投げていく…
    呆れかえった心情を隠そうともせず言葉をかけるのは、固く閉ざされた扉越し
    自らの部屋(フォルダ)に閉じこもったまま出てこないMEIKOに対してだ。

    薄手のコート、腕時計、バングル、真っ赤な上着、スカート、ストッキング…
    玄関から転々と残された…徐々に際どくなっていく遺留品に憮然とした
    表情のKAITOだったが、黒レースのブラジャーをつまみ上げた時点で
    とうとう絶句…しばしの沈黙後。頭を抱えながら背後のカゴへと投げ込んだ。
    そのカゴを抱えるミクも、顔を真っ赤にして立ちつくしている。

    「…姉さん。脱ぎ始める前に酒は止めてくれって前に言ったでしょう。
    自重するんじゃなかったんですか。レンが見たらどうするんですか。
    一応思春期なんですよ彼。そんな自重も出来ないほど馬鹿飲みしたんですか?
    姉さんはもうちょっと姉としての立場をですね…」
    「…わあった…わあったから…わめかないで…あ、頭…ひびく……」
    この糾弾に返ってきたのは普段パワフルな歌声を響かせているとは思えぬ
    ひどく弱々しく、がらがらとしたMEIKOの…うめき声だ
    KAITOは心底呆れたと言わんばかりに大仰なため息をついた
    「至って普通の音量で喋ってますよ。…朝食どうします?もう昼ですけど」
    「も…うぷ、…むり…」

    どうやら「朝食。」と聞いただけでいっぱいいっぱいになれる心持ちらしい
    えずくような音に顔をしかめながら、KAITOはMEIKOのフォルダに背を向ける。
    「一応キッチンにスープ用意しときますから、動けたらどうぞ。
    吐くにしたって、胃になんか入れといた方が良いですよ」
    そのまま歩き去ろうとする兄の背と、もはや完全沈黙した姉の部屋に
    交互に視線を向けてから、ミクは困ったように兄に尋ねた。

    「ねぇお兄ちゃん。お姉ちゃんの様子見なくても大丈夫かな?」
    「服やら下着やらが廊下に散乱してるのはミクも見ただろう?
    こういう場合僕らに出来ることは一つだけなんだ。」
    「?」
    諭すように話す兄の、何処か達観した視線に、ミクは首をかしげる。
    KAITOは静かに言った。
    「姉さんの名誉を守るため、一刻も早くここから立ち去ること。」
    ミクは素直に頷き、そして従った。


    「ったくもー信じらんない!!
    客に留守任せて飲んだくれるとかあんた本当に馬鹿なんじゃないの!
    あたしが本気出してりゃ、いまごろあんた一文無しよ!?
    しかも、帰ってきたら帰ってきたらで、布団まであたしに引かせてさぁ!
    ちょっと聞いてんの!?」

    軽く開いたふすまの向こう。部屋の入り口脇に備え付けられた
    安アパート特有の古めかしい台所で、亞北ネルは家主に向かって
    朝から声を荒げていた。
    「………う、うぷ…」
    そんな彼女の怒号に反応するように、
    万年床と化している綿布団の塊から弱々しいうめきがもれる
    しかし、それはネルの怒りをますます増長させる物でしかなかったらしい…

    「だぁぁぁ!!!っとにもう!!あたしはもう仕事行くからね!!
    なんか食べたくなったら味噌汁作ってあるから適当にあっためなさい!
    って別にあんたのために作ったんじゃないわよ!!朝食の残りよ!残り!
    見ず知らずの人に酒奢ってもらったとか、あからさまに怪しい誘いを
    断れないような馬鹿には残飯がお似合いよ!!とんでもない書類に
    はんこ押しててもあたし知らないわよ!!もう!!このお人好し!!
    いい!?吐きたくなったらとにかく全部吐いちゃいなさいよ!!
    あたし仕事行くからね!!連絡もらっても帰って来れないからね!!
    どうしてもやばかったら早退考えなくもないからね!!この馬鹿ハク!!」

    バタン!と借家中に響くような音を立てて扉が叩きつけられた…かと思えば
    一間を置いて、カチャカチャと丁寧に鍵をかけていくあたりが、
    素直に物が言えない彼女の性を良く表しているのかもしれない…
    そんな、実は、気の良い友人の足音が遠ざかっていくのを耳にしながら、
    絶賛二日酔い中の弱音ハクは、のそりと布団から顔を出した。

    酷い頭痛に止まらぬ吐き気、喉が渇いて仕方がないが、胸がむかむかして
    1ミリたりとも身体を動かす気がしない…
    只でさえ血色の良くない肌をますます青くして
    こみ上げる吐き気をこらえつつ、紅玉の瞳はぼんやりと天井を見上げた。

    何処で飲んだか、どうやって帰ってきたか、それすら思い出せない。
    そんな状況だというのに、気分だけはやけに晴れている。
    何処かの酒場で出会った「あの人」のおかげだ

    そう、あの人。確か…赤…赤かった気がする。あとは、ええと……

    だめだ、差し出された酒を3、4杯飲んだところで完全に記憶が飛んでいる。
    そもそも泥酔していたはずなのに、更にそれだけ飲めたと言うことは
    きっと質の良い高い酒に違いないだろう

    …請求書、届いたらどうしよう…。

    唐突に不安になるハクだったが、飲んでしまった以上どうしようもない
    頭痛と吐き気と戦いながら、ハクはぐったりと布団の上に崩れ落ちる。

    …でも…払ってくれるって言ってたような…

    酷く痛む頭と、霞がかった記憶に阻まれ、ほとんど思い出せないけれど…
    ネルの言うような悪い人には見えなかったし…と思い直す。
    薄ぼんやりと…思い浮かぶのは、赤い陰と、良い香りのお酒と、
    ハクの発言を「何でも聞く」という力強い、言葉。

    「…もう…ちょっと……がんばろ……………うぷ………………あ、明日…から」

    枕に向かって囁いて、ハクは再び布団をかぶった。



    めでたしめでたし

    以後、MEIKO姉さんとハクは同じ店の飲み友達になりましたが、
    相変わらずお互い名前も素性も知らず…しかも常に泥酔状態での付き合い故
    素面の時に会ってもお互い気付くことが出来ないという謎の関係に…

    ハクは完全にぐでんぐでんだから、赤かったぐらいしか思い出せてないし
    MEIKOは、素面の状態でハクを見て「…どっかでみたかなー?」程度の
    認識はあれど、「まぁいいか」状態になるので気付かないのだと思う。
    まぁ、時折愚痴(というか、泣き言)をぶちまけてるのが、
    アノ「憧れ」のMEIKOだと知ったら、ハクはショック死しかねないので
    このぐらいの付き合いがちょうど良いのじゃないのでしょうか。

    なお、ハクの部屋にネルがいるのは、
    家賃滞納で家(サーバ)を追い出されたネルが
    唯一の友達であるハクの領域に(お互い)仕方なく転がり込んでいる。
    という個人設定に基づきます。別に百合ップルとかじゃないです。
    どっちかというと、残念な独身女2名の残念共同生活です←
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