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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2018 . 06
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    かなり昔に書いた、Trifolium と同じ設定のお話。
    一応前作を読んだこと前提で話が進みますので、
    可能なかぎりTrifoliumを読んでから続きを見て下さると嬉しいです。


    カイミクパラレルで、ややもの悲しいファンタジーです。


    Oxalis


    山間の宿を彼らが訪れたのは、時季外れの大雨が降りしきる夜のことだった。
    ずぶ濡れの外套の下に無言の少女を匿うようにしてやってきたその青年は、
    いぶかしがる宿の主に自らを旅途中の楽師だと名乗った。
    山向こうの集落から麓の街を目指したのだが、この大雨と日没で道を見失い
    途方に暮れていたところ、どうにか見つけたのがこの宿だったという。

    子連れで災難だったね。と同情した様子の主だったが、次に出た言葉は
    あいにく部屋は同じような身の上の客でいっぱいで、
    あんたらを泊めることは出来ないよ。という冷たい台詞だった。
    それでも、彼らが狭い屋根裏部屋に通されることが出来たのは
    青年が懐からとり出した、小さな金色の硬貨数枚のおかげだった。

    物置代わりだが、雨風はしのげるよ。という主の言葉通り、
    部屋に置かれていたのは小さな机と椅子、そして山のように積まれた藁くずだけ。
    主に分けてもらった種火を備え付けのランプに移せば、小さな灯りながら
    部屋の中に橙色の光があふれ出した。

    青年は貸し与えられたその小さな部屋をゆっくりと見回してから、
    ぬれた外套を梁へと掛け、己の腰にしがみついていた少女抱き上げた。
    そしてそのまま机の淵へと座らせると、躊躇いなく色褪せた彼女の服を取り去った。

    …露わになった少女の胸部。そこには少女特有の白いなめらかな肌、ではなく
    数多くの歯車と真鍮と銀が組合わさった複雑な構造物が収まっていた。

    彼女は発条(ぜんまい)仕掛けの自動人形。機械仕掛けの歌姫だった。
    その血は水銀。その肉と骨は銀と真鍮。身体を覆う皮膚は硝子と琺瑯でありながら
    どこかふっくらとした柔らかささえ感じさせる、人間の少女その物の姿が形取られている。

    片目にルーペをはめた青年は、規則的に動くその歯車を一つ一つ丹念に観察する。
    そして動きが鈍い部品を見つけては、片手に持ったピンセットで丁寧に動きを直していくのだ。
    息の詰まるような作業を繰り返し、胸部の調整を終えた青年は、
    次いで彼女の細い脚をとり、関節にはめられていた卵色の球体を慎重な手つきで取り外した。
    傷一つないその球体を、今度は磨き布で丁寧に丁寧に磨いていく…

    強い雨風が屋根をガタガタと揺らし、
    部屋に置かれたランプの灯と、それに映し出された影もゆらゆらと揺れる…
    少女は相変わらずの無表情だったが、ふと、青年の腕を抱きかかえるように縋り付いてきた。
    歌以外では一切の感情を表現することができぬ瞳の中に、それでも何かを感じ取った青年は
    磨いていた球体を端におき、空いていた腕で少女の肩を抱きしめる。
    赤子にするような優しい手つきで少女の背を撫でながら、
    青年はひっきりなしに雨粒が叩きつけられる窓の外を見つめた。



    旅の始まりは些細な事だった。


    …この人形を作って下さい。お代はいくらでも支払います。

    差し出された設計図と提示された破格の金額。
    多くの人形師達が我先にとその依頼に飛びついたものの、
    熟練の職人達をもってして、そのあまりに複雑な、見たこともない機構を有した
    その自動人形を組み上げる事は出来なかった。
    やがてその依頼に挑む者は一人、また一人と減っていき、
    街の人々の記憶から依頼者の顔すら忘れ去られようとしていた頃…
    とある小さな工房の職人が、その依頼通りの自動人形を組み上げた。

    彼女を、無事に依頼者のところへ
    …彼女が、人の思うままに歌える舞台へ…

    職人に命じられた発条人形は、完成した自動人形の手を取り旅に出た。
    それは、旅とも言えないような、小さな小さな道行きにすぎなかった。
    ろくでもない争いに端を発し、一瞬のうちに荒野に消えた依頼者の暮らす街と、
    傑作である彼女を欲した輩によって、物言わぬ人形にされた職人の姿を見るまでは。

    薄紙に燃え移った炎のように、世界中に広がった争いは、彼らの居場所を奪ったが、
    それと同時に、彼女を狙う不逞の輩たちも一人も残さず消し去った。
    膨大な時間と知識と人々と…すべてを荒野に飲み込んで、
    ようやく争いが収まったのを見届けると、発条人形は再び彼女の手を取り旅に出た。

    目的はただ一つ。
    彼女を、無事に依頼者のところへ
    …彼女が、思うままに歌える舞台へ…



    強い風が窓枠を叩く最中、一際強い衝撃が、屋根裏部屋の床に叩きつけられた。
    振動でじじじ…と灯火が揺れ動き、再びぼんやりと明るさを取り戻した屋根裏部屋の中、
    突然床へと倒れ込んだ青年を少女は無表情に見下ろしていた。

    …いつからだろう。
    一度巻けば数ヶ月は保つはずの発条が、ほんの数日で切れるようになったのは。

    もはや、青年や少女のような人形を診られるだけの人間は残っていない。
    それどころか、あのろくでもない争いを思い出させると、率先して忌み嫌う人間もいる。
    たかが歌うだけ…いや、歌う事しかできない故に、時に彼女は意味もなく恐怖され、
    嫌悪され、終いには理不尽な暴力の対象になりうることもあった。
    その度に青年は、その身を挺して彼女を守り、自らも人形と悟られる前に
    人々の前から姿を消していた。…そう。この宿に来る直前も…

    裸の少女は、傍らに置かれた球体を自分の膝へと押しこむと
    首から提げたねじ巻きを手に取り、その身体を抱き起こした。
    硝子で作られた瞳は舞上がる砂煙で徐々に削られ、うっすらと白く濁っている。
    皮膚が擦り切れ、真鍮の骨格がむき出しになった指先がはだらりと投げ出され、
    起こした拍子に動いた肩からは、きぃきぃと部品が擦れるような乾いた音が聞こえる。
    足首にはめられた、本来球状であるはずの関節は長年の酷使で卵形に歪んでいる…

    そこかしこについた傷をひとつひとつ眺めながら、
    それでも少女は無言のまま、青年のうなじにかかった後ろ髪を払いのけ
    現れた小さな穴にネジ巻きを差し込み、渾身の力を込めてそれを巻き始めた。

    彼女は、設計図に記されたとおり、歌う事しかできなかった。
    喋ることも、表情を表すこともできないように設計された人形だった。
    職人がその設計図によらず、独自に彼女に与えた機能は、
    彼女を送り届けるべき人形の螺旋を巻くという…小さな動作だけ。
    関節に油を差すことも、傷んだ箇所の修理はおろか、労うことも、礼を言うことも、
    当然、この旅を止めされることも許されず、
    少女が彼に対して行う事が出来る行動は、たったそれだけだった。

    キリ、キリ、キリ…と発条が巻かれる小さな音が部屋の中に響く。
    錆び始めた発条はよほどの力を込めないと巻くことさえままならない…
    無表情のまま腕を動かし続ける少女の横顔が、揺れる灯りに照らされて
    どこか悲しげな面持ちに見えた事に気付く者は居なかった。


    翌朝、屋根裏部屋から降りてきた彼らの耳に、旅人達の話し声が聞こえてきた。

    …ここから西へと向かった国には、カラクリ好きの王様がいるらしい。
    なんでも、精巧なカラクリを献上すれば、一生遊んで暮らせるらしいぞ。

    そこに行けば彼女が自由に歌うことのできる世界があるのだろうか、と
    青年は…ふと、そんな事を思った。




    自動巻きミクと手動巻き兄さんと勝手な人間達のお話、Trifoliumの前日談です。
    公開してだいぶ経った今でも時折感想をいただいたりと、
    なんだか多くの方々に読んでいただけているようで本当に嬉しい限りです。
    そして今回の話。蛇足…になっていないといいのですが…

    一応前作から考えていたどーでもいい設定として
    兄さんもミクも人形とは言え、4桁近い年を過ごしたこともあり
    お互い(というか兄さんが)もう限界に近いことを悟っていたというのがあります。

    なのでTrifoliumの悪徳商人の甘言を聞いて、
    ミクは素直に「自分が歌える場所がみつかった。これで二人で暮らせる。」と考え、
    兄さんは男がミクを騙し取ろうとしているのに気付いた上で、
    「ミクが歌える場所がみつかった。これでもう自分はいらない。」と考えたわけです。
    …結局どちらも甘かったわけですが。

    他にも、実はミクはろくでもない争いの為に造られた音響兵器とか、リンレンの出所とか…
    それこそ蛇足もいいとこなのでもうこのへんで。
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