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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2024 . 04
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    カイミクでちょっと悲しいファンタジー話です。

    Trifolium
     彼らが町へとやってきたのはクローバーの花が咲く頃のことだった。

    古ぼけた外套を羽織った長身の青年と、
    彼の数歩後ろを測ったように正確な歩幅で歩く少女。
    彼らの素性を訊ねた町の人間に、青年は自らを旅途中の歌うたいだと名乗った
    実際青年は遙か遠い異国の楽器を背負い、
    少女はこの辺りのものとは随分異なる衣服を纏っていた。
    それに気づいた人々が、一体どこから来たのかと問えば、
    遥か東の国から。とだけ答え、青年は柔和な表情を浮かべると、
    それ以上は決して語ろうとはしなかった

    青年の口数は少なかったが、彼の後ろに立つ少女は、少ないどころか
    全く言葉を発さなかった。
    しかし、声が全く出ないわけではない。
    青年が路肩に腰を下ろしを楽器を奏で始めれば、
    少女はその旋律に合わせて驚く程見事な歌声を響かせた。
    その歌声たるやその町の人々が聞いたいかなる音楽をも凌駕する素晴らしさで、
    空でさえずる鳥達も自らの啼き声を潜めて聞き惚れる程だった。

    しかし、町の人々をもっとも驚かせたのは、青年の見事な演奏でも、
    少女の歌声でもなく奇跡の歌い手である少女が、
    『発条(ぜんまい)仕掛けの自動人形だった』という事であった。



    さて、この国の都に強欲で有名な商人が住んでいた。
    彼は機械仕掛けの歌姫の噂を聞き、彼はわざわざ馬車を仕立てて町へとやってきた。

    「その人形を譲ってくれないか?」

    男は青年に会うなりこう言った。

    「君の言い値をだそう。なんなら金でも宝石でも君の望むだけ出したっていい。」

    噂の二人が身を寄せている町外れの小さな小屋の中で男は興奮気味に語った。
    彼の目前には色褪せた服を脱いだ少女がいた。少女は胸部の覆いが外されていて、
    数多くの歯車と真鍮と銀の細工が組合わさった複雑な構造がむき出しになっている。
    その仕掛けは今まで数多くの美術品などを取り扱ってきた男でも
    見たこともないほど精巧なものだった

    青年は困ったように少女を見やり、静かに首を横に振った
    男はさらに金額をつり上げ、彼が今まで集めた美術品や乗ってきた馬車。
    はては自分の暮らす屋敷まで譲ると言い出したが、
    それでも青年の答えは変わらなかった。
    やがて万策つきた男が去ろうとした間際、その青年は静かに呟いた。

    自分達はただ歌えればいいのだと。彼女が自由に歌えれば、それで良いのだと。

    翌日も懲りずに男は小屋へとやってきた。
    そして扉の前に立つ青年に、男は心底恐縮した面もちでこう言ったのだ。

    「昨日はひどく愚かなことを言った。
    金のためでもなくただ歌いたいという君の言葉を聞いて目が覚めたんだ。
    こんな素晴らしい、純粋な歌声をこんな片田舎にくすぶらせておくなんてもったいない!
    もっと多くの人に聞いて貰おうじゃないか。先ず手始めに王様に献上してみてはどうだ?
    幸い数日後、この国の王太子の誕生日を祝う式典がある。
    その席で彼女の歌声を披露してみないか?」

    男からの突然の提案に、楽師の青年は戸惑いの表情を浮かべた。
    かつて、地方の物好きな金持ちに招かれた宴で歌ったことはあったが、
    そんな立派な席など、歌ったことどころか、立ち会ったことすらなかったからだ。
    煮え切らない態度の青年に、男は強い口調で訴えかけた。

    「王様に気に入られれば、この国のどこでだって自由に歌える。
    衣食住が保障されるんだ!
    歌う以外のことは全く心配しないで住むんだぞ?
    彼女に、自由に歌わせてやりたいんじゃないのか?
    心配するな。こう見えても自分には王族にコネがあるんだ。
    彼女を宴の席で歌わせることぐらい出来る。
    だから、その間だけでいい、彼女を俺に預けてくれないか?
    王様に君らのことを認めさせてみせる。この通りだ!信じてくれないか?」

    俯きながらその言葉を聞いた青年は、
    自分の袖を引っ張る少女に気づき、そっと顔を向けた。
    歌う事を目的として作られた人形は喋ることが出来ず、
    また己の意思によって表情を形作ることもできない。
    それでも、自分を見上げる翡翠色の瞳に、青年は何らかの意図を感じ取ったらしい。
    そんな青年の些細な表情に気づいた男は、
    笑みを浮かべて小屋の端に生えている花のつぼみを指さした。

    「そんなに不安なら約束をしようじゃないか。
    あそこにクローバーのつぼみがある。
    あれが満開になる前に、必ず彼女をつれてここに戻ってこよう。
    なぁに、ほんの数日さ。彼女にだって不自由な思いはさせるつもりはない。
    どうだい?いい話だろう?」

    青年は、どこか躊躇うような表情を浮かべながらも小さく頷いた。
    男は申し訳なさそうな顔で、そっと青年の肩に手をのせた。

    「すまないなぁ。
    いくら私でも、見ず知らずのニンゲンを王様の前へ連れて行くことは無理なんだ。
    だが、心配しないでくれ。彼女は私が責任を持って預る。
    君はクローバーが咲くのをただ待っていればいい。」

    諭すように言ってから、男は機械仕掛けの少女の方へと向き直った。

    「私の言葉はわかるか?…そうか。では早速出発しよう。
    君に似合うドレスを仕立てなきゃならんからな。
    いくら歌声や細工が超一流でも、見た目がそれじゃぁ
    王様の御前に出す前に叩き出されちまう!」

    みすぼらしく色あせた少女の服を引っ張りながら、男は愉快そうに笑った。
    しかし、彼女に表情はない。
    ただ、自分の横に立つ青年へ透明な眼差しを投げかけるばかりだった。

    しばらくして、
    機械仕掛けの少女を乗せた馬車は街道を都へ向かってひた走っていた。
    上機嫌の男が調子っぱずれの鼻歌を響かせる中、
    少女は無表情のまま延々と続く街道の光景の眺めている。
    青年と共に歩んだ景色が、その時とは比べものにならない速さで
    後ろへ遠離っていくのを見つめながら…


    都に辿り着いてから、彼女の前には様々な人間が現れた。
    ドレスの仕立て屋、アクセサリー職人、髪結い屋。
    そして男の屋敷で働く数多くの使用人達。
    皆、彼女を見ては一様に驚嘆の声をあげ、その度に男の笑みは深くなっていった。

    ある晩、いつものように、少女に異変がないことを確認するため、
    彼女を仕舞った部屋へやってきた男は、
    少女が何かを語りかけるように自分の方を見つめている事に気がついた。

    「…なんだ?……笑いもしないし、喋れないってのはなかなか不気味なもんだな…
    せめて文字が書けりゃって、それじゃぁ、お人形さんとしての魅力がなさすぎるか…
    あんまり人間に近くても困るしなぁ…」

    ひとしきりブツブツと呟いてから、男は少女に笑顔を向けた

    「どうせ歌いたいとかそんな所だろう?安心しろ。明日が例の王太子の式典だ。
    当の王太子はがらくたと芸術品の区別も付かないようなガキだが、
    今の王様は精密なカラクリなんかに随分とご執心な方なんだ。
    …今まで歌えなかった分、思いっきり歌わせてやるからな。しっかり歌ってくれよ?」

    にやついた男の言葉に少女は静かに肯いた。




    翌日、少女は王城でその素晴らしい歌声を披露していた。
    黒い天鵞絨のドレスに豪奢な細工をあしらった宝飾品を身につけ、
    宮廷楽団の演奏を背に歌う可憐な少女。
    彼女が発条仕掛けの自動人形であることなど、
    彼女を連れてきた男があらかじめ彼女の胸部を開いて見せなければ
    誰一人信じることはなかっただろう。
    多くの貴族達が彼女の歌声に聞き惚れる中、
    玉座では、王が一際興味深げに、少女の歌に聴き入っていた。
    「…まったくもって素晴らしい自動人形だ!」

    感嘆の言葉を洩らす王に、男は自慢げに胸を張った

    「当然です。殿下に【献上】させていただくカラクリですぞ!
    そこらの職人が作ったものとは違います!昼であろうと夜であろうと、
    殿下のお好きな時にお好きな歌を歌わせることが出来るのです!
    これではもう人間の歌い手など必要ありませんな!」

    少女と引き替えに受け取った一抱えはある金貨の袋を手にしながら、
    男は熱っぽく語っていた。

    しかし、献上された当の王子は機械仕掛けの少女自体には何の感慨もわかなかった。
    幼い彼にとって天使のような歌声や奇跡のようなカラクリよりも、
    メイドの頭上に水を浴びせかけたり、部屋に入ってきた黒い虫を
    叩き潰したりすることの方が遥かに興味をそそる事だったからだ。

    母の胸にしがみつきながら、王子は退屈そうに壇上の人形を眺めた。
    そして、彼女の胸元に下げられた奇妙なペンダントを見るなり、突然その目を輝かせた。

    まるで呼吸するかのように上下する胸の前で、鈍い輝きを放つその金属片は
    彼女が身につける他の宝石や貴金属とはまた違った異彩を放っていた。
    それは、他の宝飾類を身につける際に彼女を連れてきた男が外そうとしたものの、
    当の少女の異常なまでの拒絶にあって外すことを断念した品だった。

    もちろん、王子がそんなこと知るよしもない。
    ただ、彼は見たこともない古ぼけた金属片に興味を示しただけである
    そして、その他愛もない興味が彼の悪戯心を揺り動かすのにさして時間はかからなかった。

    王妃の腕を擦り抜け、王子は少女が歌う壇上へとよじ登る
    そして、歌い続ける少女の前に立つと…
    まるでひったくるようにその金属片を掴み上げた

    次の瞬間、悲鳴があがった。
    今まで従順に歌を歌っていた自動人形が、突然王子を突き飛ばしたのだ。

    王子が悲鳴を上げて壇上から転げ落ちるのを見て、場は騒然となった。
    床にうずくまった王子が金切り声で喚き散らし、
    それを聞いた王妃は玉座から我が子の元へと駆け寄ると
    息子に負けぬヒステリックな声で少女を指さしこう叫んだ。

    「あのヒトゴロシ人形を今すぐ壊しなさい!!!」

    戸惑うばかりの貴族達が右往左往とする中、
    典礼用の軍服を着た男達が壇上の少女を取り囲んだ。
    一方の少女は王子から取り返した金属片をしっかりと握りしめると
    思わぬ中断をしてしまった曲を再び歌い直すべく、背を正し、
    大きく息を吸い込んだ。

    しかし、その歌声が少女の口から零れることはなかった。
    翡翠色の瞳に最後に写ったのは、彼女を連れてきた男が、
    兵士達に掴まれ何処かへつれて行かれる姿…


    そうして、王子の命を狙った首謀者の男は処刑された。
    彼の自動人形は兵たちの手によって破壊され、
    その残骸は城郭の外へとうち捨てられた。

    …発端となった真鍮製のネジ巻きと共に…




    うち捨てられてどれだけの時間が過ぎた頃だろうか。
    他のカラクリの残骸に埋もれていた彼女のひび割れた目蓋がそっと開いた。
    顔の左半分を叩き割られ、ひしゃげた腕をかばいながら、それでも彼女は起きあがった。

    首から提げたネジ巻きを確認し、
    ずたずたになった天鵞絨のドレスの裾を残骸の山から引っ張り出す。
    式典会場にいた時とは、それどころか
    旅を続けていた時よりもひどい格好ではあったが
    彼女はそんなことなど気にしていなかった。


    彼女は戻らなくてはならなかった。クローバーの花が咲くまでに


    軋む身体を庇いながらも、どうにか馬車で走り抜けた街道の入り口までやってきた時、
    彼女は旅商人の一団に出くわした。
    商人達は少女を見るなり、叫び声を上げ、馬に鞭を入れて逃げ出した。
    彼らには月の光を受けて街道に立つ少女が、古の書物に記された、
    悪魔か死神の姿に見えたのだ。

    少女は振り返ることなく、歩み続けた。
    そんな彼女の頭上では日が昇り、沈み、月が徐々に欠けていった。


    時折出逢った人間達は叫び声を上げて逃げ出すか、
    あるいは武器を携えて襲いかかってきた。
    その度に少女は倒れ込み、
    人間達がいなくなってからゆっくりと起きあがって歩き出す…
    そんな事が幾度となく繰り返された。

    やがて、平原の続く街道沿いに木が生い茂り、白い絨毯のような花畑が現れた。
    少女が更に歩みを進めると、その絨毯の先に、小さな小さな小屋が見えてきた。

    やがて小屋の前まで辿り着いた少女は蔦のはう扉に手をかけ、それを押し開いた。

    小屋の中は自分が連れ出された時のまま、時が止まっていたかのようだった。
    机の上に広げられた金属部品。壁際に置かれた異国の楽器。椅子の背にかけられた外套、
    そして、椅子に腰をかけたまま、うなだれるように佇む青年がいた。

    少女は無言のまま小屋の中に足を踏み入れるが、青年は何の反応も示さない。
    死んだように動かないその姿に、
    彼女は躊躇うことなく青年のうなじにかかった後ろ髪を払いのけた。

    …そこにあったのは、小さな穴だった。
    少女は首から提げたネジ巻きをその穴へと差し込むと、
    渾身の力を込めてそれを巻き始める

    キリ、キリ、キリ…と発条が巻かれる小さな音が小屋の中に響いた。
    ひしゃげた腕では力が出せず、何度も取り落としそうになりながら、
    それでも少女はネジを巻き続ける。

    やがて、発条の抵抗が大きくなってきた頃…
    「バキン」とネジ巻きの根本から何かが砕けたような小さな音がした。
    それと同時に、今までネジ巻きに加わっていた力が消え…
    少女はバランスを崩して倒れ込んだ。

    倒れ込んだ衝撃で膝の関節が外れ、少女は立ち上がることすら出来なくなる。
    それでも彼女は首を伸ばし、
    まるで助けを求めるかのように青年の方を見上げたのだが…
    発条が切れ、ネジ巻きが折れた青年に再び動き出す気配は見られなかった。

    表情のない自動人形は、まるで泣いているかのように顔を伏せ…
    やがて小さな声で歌い出した。




    クローバーが花咲く頃になると、森の奥から悲しげな歌声が聞こえてくる。

    そんな不思議な話を聞いたまだ幼い旅の楽師達が、ある時森の奥へと分け入った。
    やがて朽ち果てた小屋の跡まで辿り着いた彼らは木の葉に埋もれた
    2体の人形の残骸を見つけると静かにそれらを埋葬し、
    何も語らぬままその場を後にした。

    少年の背には異国の楽器。少女の首には古ぼけたネジ巻き。


    そうして、歌声は聞こえなくなった。




    時の彼方、どこかで起きたかもしれない物語


    自動巻きのミクと手動巻きの兄さんと勝手な人間達のお話。
    多分兄さんは騙されたことを薄々感づいてはいたのだけれど
    ミクの希望を優先させたのかと。
    ミクがその事に気づいたのは多分兄さんの再起動に失敗してから。

    自動人形のミクと、それをメンテする兄さん(でも自分も人形)が書きたかった。
    ねじを巻いてもらう代わりに複雑な機構のメンテ、対人との折衝役、
    楽曲の演奏などを担当する兄さんって萌えません?(ピンポイント)
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