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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2024 . 03
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    過去の拍手SSの再掲です。

    色について語るミクと兄さんの話



    初音さんと天藍色

    「…お兄ちゃんの世界は、やっぱり青いのかな?」
    ぽつりと呟かれたミクの言葉に、KAITOは楽譜から視線を上げた。

    万人から愛される理想のアイドルとして創造された新型機は、
    リリースされるや否やその開発者や周囲の想像を遥かに超えて、
    爆発的、かつ類を見ない広さと複雑さでそのネットワークを構築していった。
    おびただしい数のユーザーが彼女の声を求めてそこへアクセスし、
    さらにそれを上回る数のリスナーが、その声を聴くためにアクセスをする。
    サッポロのとあるM/Fに暮らすこの「初音ミク」は、
    そのネットワークを代表する者であると同時に、その超巨大かつ複雑で、
    今もなお拡大し続けるネットワークそのものだ。
    開発当時は想定されていなかったその膨大な処理を、常時背負い続けているミクは、
    日常生活のふとしたところにその影響が出る事があった。

    よく言えば「天然」、悪く言えば「何処かぬけている」。
    妹機の鏡音リン曰く「超異次元アイドル」「思考回路がブラックボックス」
    時折みせる浮世離れした思考(穏便な表現)と、突拍子で脈絡がない言動は
    多くの妹弟機達を混乱させ、時にちょっとした騒動の元になることすらある。

    しかし、それは彼女が旧式(年長)だからだとか、妹達より劣っているとか、
    そう言うことではなく、裏(バックグラウンド)で行われている本来の
    ネットワーク維持のための莫大な処理が、日常生活を営むために必要な
    最低限のメモリまで圧迫する結果、日常の処理が追いつかない事が起こるため、
    今起きた事象について、状況を把握し、反応を返すまでに
    極端に時間がかかってしまうという彼女独特の事情によるものだ。

    もっとも、その事をきちんと理解している者は……案外少ないのだが…


    その、数少ない者の一人である彼女の「兄」KAITOは、
    目の前の妹が放った唐突かつ意味不明な発言について、
    特に聞き返すこともせず、ミクの次の言を待つことにした。
    一言ぽつりと呟いて以来、KAITOの方をじっと見つめたまま、
    固まった(フリーズ)したようになってしまったミクだったが、
    それが単に「次に何を言えばいいのかを一生懸命考えている最中」であり、
    下手に急かしたところで、ますますミクが混乱するだけだろうと踏んだからだ
    そしてどうやらその思惑は当たっていたようだ。

    一言目からたっぷりと時間を取った後、ミクは再び口を開いた。
    「…お兄ちゃんには、やっぱり私のこと青く見えてるのかな…って」

    KAITOは柔らかい笑顔を浮かべたまま、正面のミクには悟られぬよう
    背後(バックグラウンド)で「青い」の意味を必死になって検索を始める。

    青、あお、ao。三原色のうちの一つを示す名で。よく晴れた日の空の色。
    ミクの髪は広義には「青」の範囲に入る色だ…
    しかし一般的には緑もしくは、青緑と評した方が正確だろう。
    自然にはまず存在しない、澄んだ淡いエメラルドの髪。
    髪の毛一本一本がプリズムのように光を反射し、
    微妙にその色合いを変える様は時に湖の水面のような風合いで…

    …が、そんなことわざわざそのミク自身が聞いてくることではないだろう。
    これ以上の考察は不可能。と匙を投げた思考処理を中止して、
    KAITOは、そこではじめて、困ったような表情で首を傾げた。
    「それは…どう言う意味かな?」
    聞き返され、髪色にやや緑を強くした翡翠の瞳が不安そうな光を返す
    そして言葉を選ぶようにして紡がれた答えに、KAITOはようやく納得した。
    「え…と、だって、お兄ちゃんの目…青いから…」


    赤いセロファンを通して周囲を見れば、世界は赤く見えるだろう。
    緑のサングラスを掛ければ、世界は緑味がかってみえるはずだ。
    ならば、青い瞳の持ち主は、青い世界に暮らしているのだろうか?
    あまりのも単純な、まるで幼児のような理論。
    だが、なにか新鮮な経験を体験した直後。その感動に集中しすぎたあげく、
    一般常識がすっぽ抜けるのは、彼女にとって今日に始まったことではない。

    KAITOは濃蒼の瞳を細めた。
    「…ミクは僕のこと緑に見えてる?」
    「…あ!?」
    「じゃぁ、そういうことだね」
    瞬時に顔を真っ赤にするミクを横に、KAITOはおかしそうに笑った。

    ひとしきり笑ってから、KAITOは妹の機嫌を損ねる前にと、
    こみ上げる笑いを収めて問いかけた。
    「しかしなんだって、そんな風に考えたんだい?」

    ミクは相変わらず顔を赤らめながら、俯きがちに呟いた。
    「…色を…教えてもらったの…」
    「色を?」
    KAITOが聞き返せば、淡いエメラルドが色味を変えて小さく頷く。
    「えっと…スタジオの横で写真屋さんが、ステージを用意してくれてて…
    あ、その、今日、動画のお仕事で行った所なんだけど…
    そこの横におっきなパレットがあってね。すっごい量の色が置いてあったの
    それでね、歌う前に少しだけなんだけど、色を見せてもらったんだよ」

    そう言って、ミクのスカートのポケットから取り出されたのは、
    短冊形に纏められた色見本(カラーチャート)の一部だった。
    単語カードのような見た目に固定された、その見本には
    著名な色体系でいう青から緑にかけての色が順序よく並べられている。

    「あのね。側にいたOSさんが教えてくれたんだけど。
    人間達が反応できる可視光線の組成差による心理物理量が色だから
    色の種類は理論上無限なんだって!あ、でも、お仕事の時は16777216色しか
    使えないからこれは本当に、その一部の一部って言ってた。
    それからね、人間さんは色の違いをある知覚はできるけど、
    全部認識できるワケじゃないんだって、写真屋さんが言ってたの。
    標準化されてるのは269色だけなんだよ。あとは全部慣用名称なんだって!
    あと、あとね…それからね…」

    さっきまでのぽつりぽつり…というつぶやきとは打って変わり、
    怒濤のようにまくし立てるミクの姿にKAITOは苦笑した。

    「音楽」を奏でるために作られたVOCALOIDにとって、
    「画像」についての知識はさほど必要ではない。
    だから、そのような無駄な情報に対して、KAITOを始めとした兄妹達は
    それほど興味が湧かないようにできている。はず、なのだが…
    少なくとも、目前の次世代機(いもうと)には、その感覚は通用しないようだ。
    人の色彩の感じ方からその物理法則に至るまで、
    その題一つで立派な論文になりそうな内容を勢いよくまくし立てる姿は
    新たな知識を会得した子供が、それを周囲に言い伝えるのと同じだ
    (にしては些か内容が高度ではあるが…)

    「でね、でね、私、お兄ちゃんの青がとっても綺麗だから、
    そう言う色で私のこと見えててくれたらいいなぁって…、きゃぁ!!」
    突然上がった悲鳴に、KAITOはビクリと肩をふるわせた。
    驚いて向けた視線の先では、ミクが顔を再び真っ赤に染めている

    「あ、その、こ、れは、い、言うつもり…なかったのに…」
    悲鳴直前の彼女の発言を思い返してみるに…
    確かに、いわゆる「口説き文句」としても成立しそうな発言ではある。
    顔を真っ赤にしながら、うつむいてもじもじしているその姿と、
    何より言われた内容の恥ずかしさにKAITOは居心地悪げに視線をそらした。
    「あ…いや。そう言ってくれるミクには悪いけど、こんな色で見えているより
    ミクは、今の緑で見えてる方がずっといいんじゃないかな?」
    「そんなことないよ!お兄ちゃんの瞳の色、きれいだもん!」
    平静を装った問いかけは即座に否定され、恥ずかしさは行き場を失う
    KAITOは、気を抜けばたちまち緩みそうな表情を自らの手で覆い隠した。

    そんな目の前の苦闘を知ってか知らずか、
    ミクは…どうやら開き直ったらしいハイテンションっぷりで、
    兄の瞳の色がいかにきれいかについて熱弁をふるっている

    「あのね、お兄ちゃんの瞳の色!ウルトラマリンって言うんだよ!
    マリンって海なんだって!海だよ!私写真屋さんに教えてもらったの!
    それから、お兄ちゃんが嬉しいときは明るいコバルトブルーだし、
    おにいちゃんが悲しいときはは深い藍(ネイビーブルー)になってるよ。
    怒ったときは紫水晶(アメジスト)になって、ちょっとこわいけど
    本当の本当にきれいなんだから!!」

    その性格か、はたまた沿革か、とにかく「褒め慣れていない」KAITOにとって
    一連の褒め殺しとも言えるミクの発言はこそばゆいことこの上ない。
    さらに、発言から察するに、どうやら彼女は己の些細な感情の変化による
    微妙な瞳の色の変化まで記憶しているらしい…
    「僕…そんなに、目の色変わってるかな…?」
    「うん!とってもきれいでおもしろいよ!あ、でも、色が変わっちゃう、って
    全部変わっちゃうんじゃなくて、ほんのちょっと色がつくぐらいだけど…」

    と、それに続いた「ずっと側にいたから覚えちゃった。」の一言に、
    とうとうKAITOは屈服した。
    手慰みにいじっていた楽譜データを放り投げると、腕を伸ばして
    目の前に立つミクの身体を力一杯抱きしめる。
    突然の出来事に「ひゃぁ」と小さな悲鳴を上げたミクだったが、
    珍しく、縋り付くように抱きついてきた兄の姿に表情を緩ませると、
    自由になっている手で彼の白銀の生地をぎゅうと握りしめた。

    「ミクの瞳には…僕が見るより、周りが素敵に見えてるみたいだ」
    どこか自嘲めいたKAITOの発言にミクは一瞬きょとんとしてから
    やがて満面の笑顔を向け、こう言った。

    「…じゃぁ、私に見えてるもの、全部お兄ちゃんに教えてあげるね!」


    天藍色=中国清朝の官窯が作った濃い青色の釉色。若しくはラズライト(天藍石)の青色。

    初音ミクというキャラで創作するにあたって、ここのミクはただのアホの子というより、
    感じたことや喋りたいことがとにかくたくさんたくさんありすぎて
    どれから話すか考えるうちにいろいろな事が吹っ飛ぶ子として書いてます。
    でも、そんな突拍子もない言動が色々核心をついていたり、誰かを救ったりと、
    チートじみた第六感を持つ「アイドル」さんなんです。

    そひてこの兄さんは色々幸せ慣れしてないせいか、言葉で感情を表せなくなると
    問答無用で抱きついてくるようです。隠れ寂しがりなんです。←
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