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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2018 . 08
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    カイミクでなんちゃって和風ファンタジー話です。
    和風っていっても、日本の明治大正期辺りのそこら編の雰囲気です。
    軽く本を読んだ程度の知識で書いてます
    詳しい時代考証は無視してくださいね~(無責任)









    あら珍しい。こんな私のもとにお客様が来るなんて…

    え?…梅の話?
    …そうですね。随分昔に娘に話した覚えがあります。
    それをお聞きに?わざわざ?
    あら、困ったわ。
    こんな老婆の夢物語を聞きに、こんなご足労をかけさせてしまうなんて
    ほんとうに、夢みたいな…だれも信じないような……昔のお話ですのよ



    寒梅の君



    私は武家の家に生まれました。
    武家とは言っても、もう時代が時代でしたから…大きなお屋敷は持てども
    もはやほとんど名ばかりと言ったような…その程度のお家でございます。

    そんな家で、私は殊更厳しく躾けられました。
    私の母は後妻で、しかも元々芸妓の出でしたから…
    母様は常に周囲からの悪評を、必要以上に恐れておいででした。
    琴を爪弾く指の動きが乱れれば、容赦なくその指を扇ではたかれましたし、
    お茶席で身じろぎなどしようものなら、茶席が終わってから何時間も正座をさせられました。
    ひどい親だと周りの方々はおっしゃるかもしれませんが
    母は母なりに、慣れぬ暮らしに合わせようと必死だったのでありましょう。
    今となっては、きっちり躾けられたことについて感謝こそすれ、恨む気持ちはありません。

    ですが、やはり幼子の身には…なかなか堪えるものでございました。

    私には3つ年上の腹違いの姉がおりましたが、やはり母親が違うからでしょうか
    あの頃は私とあまり口を聞いてくださいませんでした。
    家の女中や下男達も、後妻とはいえ、母親の言葉に逆らうことは許されません。
    結局、どんなに泣こうと叫こうと、幼い私へ手をさしのべてくれる者はいませんでした

    そう…あの方を除いては


    あの方に初めてお会いしたのはいつの頃だったでしょう
    私がお茶席の稽古に耐えきれず…庭を泣きながら歩いていたときでした…

    不意に、梅の花のよい香りが鼻をくすぐって…その可憐な香りに引き寄せられるように
    私は庭の片隅に忘れられたように植えられた、一本の寒梅を見つけたのです

    「…どうしたの?そんなに泣いて何処へ行くんだい?」
    寒梅の傍には一人の青年が立っていました
    私はその青年を見たことがありませんでした。だからその時は…父のお知り合いの
    どこかの立派なお家の息子さんなのだと、そう思いました。
    「ないてなんかいません」
    幼い私はそう答えました。大切なお客様の前で泣いていたなどと母に知れたら、
    それこそどんなことになるか…考えただけでも恐ろしくて、私は嘘をついたのです。
    しかし、既にあふれた涙は隠しようもありません。
    私が一人戸惑っていると、彼は…優しい微笑みを浮かべて、こうおっしゃいました
    「嘘をついたらダメだよ。僕は、君のことをよく知ってる。
    君がつらいことも、何故泣いているのかも…だから、君は存分に泣いていいんだよ」
    「でも、あなたは…わたしがないてたこと、かあさまに、おっしゃいませんか…?」
    「誰にも言わない。僕と、君だけの秘密だ。」

    見たこともない、初めてお会いした方の言葉を、
    どうしてあんなに素直に信じられたのか…私が子供だったから。と言うよりも、
    あの方を取り巻く柔らかな空気が、とても嘘を言ってらっしゃるようには見えなくて…
    私は、多分、あの時に生まれて初めて他の誰かに心を開いたのだと思います。
    そして大きな声をあげて泣きじゃくる私を、あの方は優しく抱きしめて、
    ずっとあやし続けてくださいました。
    母の温かみさえ知らぬ私にとって、あの暖かさがどれだけ焦がれた物だったか…

    夕刻になって、私が戻らないことを知った下男達が、大慌てで庭を探し回ったとき。
    私は、梅の木の根本で…一人眠り込んでいたそうです。
    母様には、当然烈火の如く怒られましたが、もう辛くありませんでした。
    私が眠りに落ちる、その刹那のことでありましょう…私は確かに聞いたのです。
    柔らかな、それでも何処か凜とした、あの方の声を
    「辛くなったら、いつでもおいで。僕は…ずっと君の傍にいるから」

    それから私は辛いことがあると、度々庭の片隅に植えられた梅のもとへと行きました。
    あの方は、どんな日も、いつであっても、必ずそこに佇んでいらしたのです。
    彼が、人でないことは、子供ながらにわかっていました
    それでも、たった一つだけ、自分に優しく差し伸べられている手を、
    どうして拒むことが出来るでしょう?

    私は、あの方にたくさんお話をしました。
    自分の世話をしてくれる女中のこと、自分が生けた花のこと、弾いた琴のこと…
    子供のたわいのない話だというのにあの方は、笑顔で頷いたり、
    おかしそうに声を上げて笑ったり、悲しそうに私を気遣ってくださったりと
    どんなに辛いことがあっても、あの方の御側で話をしているうちに
    いつの間にか、その辛さも、たいしたことの無いような気がしてきて…
    あの方と過ごしている間、私は、本当に幸せだったのです



    私が、あの方を「兄様」と呼び出したのは…
    長かった梅雨があけて、日差しが徐々に強くなった頃でした。

    「あのね!今度、姉様がお嫁に行かれるのよ!!」

    当時の私はあずかり知らぬ事でしたが、それは、前から進められていた話だったそうです。
    没落し名ばかりとなった武家の娘と、事業に成功し飛ぶ鳥を落とす勢いの成金との婚姻…
    後で耳にした話では父様が投資に失敗した借金のカタとして姉様の結婚を言い出したとか…
    もし、それが事実であるならば…あの気位の高い姉様の心中、如何ばかりだったでしょう。
    そんなことも知らず…私は屋敷で見かけた、真っ白な花嫁衣装に胸を躍らせて
    兄様に、そう話しかけたのです。
    …ですが、兄様は、すぐには何もおっしゃいませんでした。
    きっとその顛末をご存じだったであろう兄様は、何処か悲しそうな笑顔を浮かべ
    そっと私の頭を撫でながら、こうおっしゃったのです。

    「…大丈夫。おまえも、幸せになれるよ。」
    「私も姉様みたいな花嫁様になれるかしら?」
    「あぁ、彼女より、もっとずっと綺麗な花嫁になれるよ」



    夢は、いつかは醒める物だと申します
    私がその夢から覚めたのは…、あの、秋も深くなった、あの夕べでございましょう

    「もう一度言ってご覧なさいっ!!」
    屋敷中に響く声で、母様が怒鳴っていました。
    私はその正面で…じっと、堪え忍ぶように、身をすくませる事しかできません
    「私の決めた縁談が嫌だって!?
    お前もこの家の娘なら、姉のようにお家のためにその身を尽くすのが勤めでしょう!」

    …姉の結婚で手に入れた莫大な資金を、父様はまたしても事業の失敗で失いました。
    家が存続するためには、私が、姉様と同じようにどこかの金持ちに嫁ぐしかなく…
    昼の茶席に呼ばれた、その婚約者は、確かに、父様の借金を肩代わりできるだけの
    財を持っている方ではあったのです…
    「…でも…でも…お母様…私、嫌です。40も年の違う殿方の所に…お嫁になんて…」
    「五月蠅いっ!!お前は、お家がどうなっても良いのか!?
    昼にお前が嫌だと言ってから、この家の女中達がなんと噂してるか知ってるのかい!?
    姉様は良家のご息女から生まれたお嬢様だが、妹は所詮芸妓の子だとっ!!
    おまえが!おまえがっ!このあたしの顔に泥を塗ったんだよっ!この親不孝者!!」
    背を何度も蹴られて、殴られて…それでも私は悲鳴をあげることすら出来ません
    母様は、私が書棚においてあった詩集やら、恋愛小説やらを手に取ると、
    今度はそれを私めがけて投げつけてきました
    「女のくせに本ばかり読みあさって、そんなことだからお前はそんな偏屈になったんだ!
    嫁ぐのが嫌だっていうのも、どうせどこかに男でもいるからなんだろう!?
    茶席で貞淑にしてると思ったら、色目を使って男をたぶらかしてたんだろう!!」
    「そんなことはありませんっ!」
    悲鳴のようになった私の声を聞いて…母様は…ぞっとするような嗤いを浮かべました

    「あたしはね…知ってるんだよ」
    激高したときとは打って変わって、低く静かな声音で、母様は私におっしゃいました。
    「お前、あたしに怒られたり、辛いことがあったりすると…屋敷を抜け出してたね?」
    私ははっとなりました
    母様は、私がこっそり兄様にお会いしていることに気づいてらっしゃったのです。
    そのことが表情に出ていたのでありましょう、そんな私の顔を見た母様の顔が
    ますます、いびつに、恐ろしいほどに歪んだ笑みを浮かべました

    「お前達っ!この子をお客人の所へ連れていきなさい!!」
    「母様っ!?何を!!」
    背後に現れた下男達に突然羽交い締めにされ、私は恐怖のあまり大声を上げました
    そうして、振り返った母様のお顔は…あぁ、なんと例えればよいのでしょう
    人間は、かくも恐ろしい形相が出来るのだと…心から震え上がるような、
    それはそれは恐ろしいお姿でございました…
    「色に狂うぐらいなら…お家のためにその手管を奮えと言っているのさ…」
    その日、屋敷の離れには、件の縁談相手が泊まっていました
    母様は私を其処へやって…無理矢理にでも、話を進めてしまうおつもりだったのです。

    私は、絶望いたしました。
    血を分けた母に信じて貰えなかった事、この騒ぎを聞いても顔をお出しにならない父様の事
    これから先、私に待ち受けているであろう辱めの事…様々なことが綯い交ぜとなって
    私は、無我夢中で下男達の腕から…飛び出したのでした…



    屋敷の外では、数寸先も見えぬほどの勢いで雨が降っていました。
    それでも構わず。私は、足の覚えているがまま…庭の、片隅の梅の木へ…
    兄様の元へ、土砂降りの中、明かり一つ持たず…泣きながら、走ったのです

    「兄様っ!兄様っ!!兄様ぁっ!!!」
    涙と雨で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私は寒梅の横に佇む兄様の胸に飛び込みました。
    「私、もう嫌!…こんな家にいたくない…こんな思いしたくない…
    こんな…こんな…こんなぐらいなら…生きてなんていたくないっ!!
    兄様!私を兄様の世界へ連れてってちょうだい!…私は、もうこんな所にいたくないの
    あんな人と結婚なんてしたくないの…あちらで二人。一緒に仲良く暮らしましょうよ?
    …ねぇ、ねぇ…いいでしょうっ?!」

    むせ返るような梅の香りの中で、兄様は私のことをじっと見つめていました。
    そして、どの程度時間が経ってからの事だったでしょうか…
    兄様は小さく、首を横に振りました
    「…君は、幸せになるんだ。この世界で。」
    「でも…!」
    「大丈夫。僕が、君を守ってあげるから」

    「みつけたよっ!!」
    振り向けば、髪を逆立てて、般若のようなお顔になった母様が
    先程の下男達を連れて立っていました。

    「…やっぱり、男を連れてこんでたんだね…この…恩知らずがっ!!」
    母様は、片手に薪割り用の鉈を持っておいででした。
    真っ暗な雨の晩にもかかわらず、その刀身だけが、鈍く冷たく輝いていて
    その鉈を振り上げた母様から私を庇うかのように、兄様がその前に立ちはだかり、
    母様は何事かを叫き散らしながらその、お兄様へ飛びかかって行かれたのです
    そして、母様の振るった鉈が…兄様の…兄様のお体へ食い込もうとした…その瞬間…

    ミク。どうか、幸せになって…僕の分まで…

    私の目の前を、一瞬にして真っ白な花弁が埋め尽くしました…
    そして、鼻をくすぐるのは…かぐわしい、あの梅の香り…
    桜と違い、梅があのように吹雪の如く、花弁を散らすことがあるのでしょうか?
    学のない私には知り得ませぬが…確かにあの時、寒梅の花が周りを埋め尽くしたのです。
    そうして、私は…その梅の花吹雪に抱かれるように…気を失いました



    「お目覚めになりましたか?ミクお嬢様」
    目覚めた私に声をかけてきたのは、幼い頃に私の面倒を見てくれた婆やでございました。
    この家に古くから仕え、とても賢く優しい婆やは、小さい頃の私の母代わりでしたが
    母様との折り合いが悪く、私が6つの頃に暇を出されて田舎に帰っていたのです

    また少し顔の皺が増えたように見える婆やを見留め、
    私は安心からか体中の力が抜けたように思えました。よほど、緊張していたのでしょう。
    しかし、その反面、何故ここに婆やが居るのかと不思議な気持ちもございました。
    ひょっとして…私は、本当に「兄様」の世界へ渡ってしまったのではないのかと…

    そんな私の心の揺れを、婆やはちゃんと感じ取ってくれたようで、あの頃と変わらない
    柔らかな笑顔を私に向けてくれました。

    「ここは、お嬢様のお部屋にございます。婆やはお嬢様が倒れられたと旦那様から、
    連絡をいただいて、田舎から汽車でとんできたのでございますよ?」
    「ねぇ、母様は?…縁談は?…私、あの後どうなったの?」
    「お嬢様はあの晩に倒れられてから、大熱を出して丸3日も寝込んでらしたんです
    ようやく婆やの熱冷ましが効いたのでしょうねぇ。
    縁談のお話も…大雨と一緒に流れてしまったそうですよ」
    きょとんとする私に、婆やは事の次第をひとつひとつ言い聞かせるように語り出しました。

    あの時、私と母様の周りにいた下男達の話によると
    母様は突然、誰もいない方へ罵声を浴びせかけ…呆然とする私の横に立つ『梅の木』へと、
    何度も、何度も、鉈を振り下ろしそして…そのまま笑い狂ってしまったのだと。
    駆け付けた父様と、女中達の必死の呼びかけも空しく、
    母様は…その晩のうちに大きな病院へと入れられたのだと、婆やはそう言いました。
    そして、その様を離れから見ていた縁談相手は…その光景に怖じ気づいて
    そのまま逃げるように帰ってしまい…今朝、正式に話を断ってきたのだとの事でした

    呆然とするばかりの私でしたが、一つだけ気に掛かることがございました。
    兄様…いいえ、母様に鉈を振り下ろされた…梅の木の事です。
    「ねぇ…梅の木は、あの寒梅はどうなったの?」
    婆やは小さく首を横に振りました。
    「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿とは申しますが…
    今回は幹がすっかりダメになってしまいましたからねぇ
    あの寒梅には悪いことをしましたが、近いうちに庭師が新しい木を植えてくださるでしょう」
    「だめよ!!」

    私は、顔を青くして叫びました。
    「あの梅の木じゃないとダメなの!!
    あの寒梅じゃないと…きっと兄様にはお会いできないわ!!」
    取り乱す私の言葉に、婆やはさっと顔色を変えました。
    「!?…ミクお嬢様!!何処でそれを!!」
    「…ど、どうしたの婆や?そんな、顔色を変えて…」
    婆やは私の肩をがっしりと掴むと…こう言いました。

    「今、兄様とおっしゃったではないですか!!
    何故ご存じなのですか…あなたが…カイト様のことを………」


    平静を取り戻した婆やが、仏間から漆塗りのお位牌を持ってきました。
    それは姉様の母様、父様の先妻様のお位牌で…そこには何故か二つの戒名が
    記されているのが見えました。
    「…ミクお嬢様。あなたにはお兄様がいらしたのです。
    お嬢様がお生まれになる1年前…寒梅の咲く大雪の日にお生まれになり…
    たった3日で、お七夜も迎えられずに逝ってしまった…お兄様が…」
    白い手ぬぐいで涙を拭きながら、婆やは静かに言葉を続けました
    「奥方様もその後の産後の肥立ちが悪く、後を追うように逝ってしまわれた…
    跡継ぎがいなくなった旦那様は、奥方様の四十九日が明けるとすぐ
    ミクお嬢様のお母様を…お家に迎え入れられたのです。
    …ごぞんじなかったのですか?」

    「知らない…知らないわ…そんなこと…私は…梅の木の下で…兄様に会ったのよ…
    兄様は、私が行くといつも笑ってらっしゃって、私のこと励ましてくれたのよ
    私に、私に…幸せになれと、あの時も…」
    そう、兄様はずっとそうおっしゃっておられました。
    私に…どうか幸せになってほしいと、ずっと、ずうっと…
    生まれて、すぐに死んでしまった自分の分まで…幸せにと…

    婆やが差し出した位牌には、金色の小さな文字で兄の名前が彫りつけられています
    涙ながらにその文字を指でなぞる私に、婆やは優しく微笑みました。

    「カイト様は、寒梅の化身になってミクお嬢様を守ってくださっていたのですね…」



    その後、母様の話を聞きつけた姉様が、私の元に駆け付けてくださりました。
    姉様とその旦那様は、母を失い、大熱を出したという私の身を大変心配してくださり、
    彼らの事業のご縁だというある華族様の別荘に、
    私は半月ほど療養させていただける事になったのです。
    そして、父の負債は姉様とあちらの旦那様が代わって返済するという話で落ち着きました。

    …姉様は、子供の頃からずっと私のことを気にかけてくださっていたというのですが、
    母様が、私と姉様を近づけないように見張っていたせいで、声がかけられなかったと
    こんな事になるなら、もっと早くに声をかけていれば良かったと、
    療養先で涙ながらにおっしゃってくださいました。私は、もう本当に嬉しくて…嬉しくて…
    私はひとりぼっちではなかったのだと、その時、初めて知ったのです。


    それからの私は身に余るほどの幸運に恵まれました。
    療養に行った海辺の別荘地で、ある華族の殿方と出会うことができて…
    私は幸せな結婚をすることが出来ました。すぐに子宝にも恵まれたのですよ

    姉様も、初めはお金のための結婚だったとずいぶん嘆かれていたようですが
    あちらの旦那様の人となりに触れるうちに、本当に、心からお慕いするようになれたと
    時折顔を赤らめながら、そうおっしゃっていました。
    この一件以来、姉様はしょっちゅう私のことを尋ねてきてくださって
    その度に一緒にお話ししたり、お茶をしたり、買い物にも出かけるようになりました。
    お互いそれぞれの家庭を持って…ようやく、姉様とは本当の姉妹になれたような気がします。

    父様は、あの後、母様に厳しく接したことを酷く後悔なさっているようでした。
    それでも、自分は武家の主なのだという気概からか、
    人前で弱音を吐くようなことはなさいませんでした。
    結局…父様は、母様を離縁したり、新たに妻を娶ることはせず。
    養子も何故か迎えようとはなさらなかったので、男児の絶えた我が家は断絶。
    今となっては私と姉様の持つ嫁入り道具に家紋が残るばかりとなってしまいました。

    そして、母様は…あのまま、病院の中でお亡くなりになりました。
    親孝行させていただけなかったのが…唯一の心残りではありましたが…
    最期は、眠るように、穏やかに息を引き取られたと聞いて、それを心の慰めにしております。

    ええ、私は幸せになりました。誰よりも、誰よりも。…寒梅に宿った、お兄様の分までも…





    階下から、多くの人がすすり泣くような声と、絶えず焚かれている香の匂いが昇ってくる
    喪服を着た一人の女性が誰かを捜すかのように、部屋の扉を開け、中をのぞいては
    また扉を閉めると言ったことを繰り返していた。そうして、その女性がその扉を開いたとき…
    中には床一面に見事な細工物を広げた別の喪服の女性が座っていた。

    「あら、こんな所にいたの? もうすぐ納棺の時間よ」
    「え、えぇ…あの、お祖母様が大切にしてらした梅の簪(かんざし)を
    納めて差し上げようと探していたのですが、見あたらなくて」
    大きな長持の中には帯留めや簪など、彼女たちの祖母が使っていたという
    細工物が多数収められている。
    部屋に入ってきた方の女性は困惑したように首をかしげた。

    「梅の簪ならもうお祖母様が持ってらしたでしょ?」
    「いいえ、あのような地味な木の簪ではなくて…前にお祖母様がつけてらした
    白い梅の花のがついた、とっても綺麗なものがあるはずで…」
    「…お祖母様はそんな簪持っていないはずだけど?」
    「えぇ?」
    「梅の簪と言えば、昔に折られた梅の木から削り出したとか言う地味な簪以外、
    お祖母様は持ってないはずよ。白い花がついてるものなんて見たこともないわ」
    生前の祖母と一緒に暮らしていた女性は、自らの記憶をたどりながら口を開く
    しかし、もう一方の、簪を探していた女性はその言葉に納得行かないようだった。

    「…そんな…私が子供の頃、冬にお祖母様の家を訪ねたとき…
    お祖母様はそれで御髪を留めていらして子供ながらに見事な細工だと感心していたら…
    お祖母様、嬉しそうにお笑いになって「とっても素敵な寒梅の花でしょう?」と…」
    「じゃあ…その後どなたかに差し上げてしまったのじゃないかしら。
    お祖母様がやってらしたお茶の生徒さん達。結構いろいろな物をお祖母様から
    戴いてたと聞いているし…さぁ、もう葬儀屋の方がいらっしゃっるわ」

    部屋を出て行く従姉妹に続こうと女性は長持の中へと広げた物を収め始めた。
    武家の出だったという祖母が、元華族だった祖父から買い与えられたという
    見事な細工の簪や帯留めを次々と箱に戻しながら、女性は、ふとあの梅の簪をつけた
    祖母の姿を思い出した…
    地味な彫り物の入った木の簪から、まるで生きているかのように咲いていた白梅。
    雪景色が広がる極寒の屋外からはは隔絶された、暖かい屋敷の中で
    それをつけた優しい祖母の膝で甘えていると、どこからともなく梅の香りが漂ってきたのだ…

    …やはり、自分は夢を見ていたのかもしれない。女性はそう思った。
    作り物の梅からは梅の香りなど香るはずがないのだから。
    きっと幼い頃の記憶が夢や現実と色々ごっちゃになっているに違いないのだと


    「そうよね。…あの時、お祖母様の傍に若い男の方がいたなんて、そんなわけないものね」



    花精になった兄さんと、幸せに生き抜いた妹のお話。
    今まで書いたことのない話を書いてみようと、悪戦苦闘してみました

    しかし、元々Solomon Grundyをつかったネタを考えていたのに
    なんだってこんなことになっちゃったんだろう
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