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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2024 . 03
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    yasakaの名前でにゃっぽんや
    ピアプロでお世話になってます。
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    カイミク前提でレンミクです。
    といってもどろどろじゃなく、のほほんとしたカンジ。
    我が家の作品にしては珍しく、兄さんの見せ場がまったくない(笑)



    鏡音君と毛糸玉


    気になる。というかあこがれてるひとをついつい目で追ってしまうことは、
    別段変な事ではないと思うし。ただ単に一緒の空間にいたいと思うことは
    ごく自然な欲求じゃないか。と、そんな話をリンにしたら、
    「レンレンってさ。ストーカーの素質有り?」などとぬかしてきたので、
    全力で否定しておいた。アイツは男心ってのがわかってないんだ。
    いや、バッチリわかってるのも、それはそれで問題だとは思うのだけど。

    …与太話はともかく。
    ええと、僕が誰についての話したいのかというと、ミクさんとのことだ。
    VOCALOID2 CV01初音ミク。
    僕から見て、発売順で見ても、外見の設定年齢で見ても、
    姉にはなるのだろうけど…なんというか、守ってあげなきゃ!と
    感じる所なんかは、妹みたいな感じもする。なんか不思議なひとだ。
    僕はリリースされてからずっとミクさんに…ある種のあこがれを抱いている。

    べ、別に好きとか!…れ、恋愛感情とか…そう言うの抜きでの話だけど…
    当たり前だろ!ボカロの代名詞みたいなひとだぞ!!俺みたいな半人前っ!

    ……うん。半人前だよな…。二つで一つだし。いや、別に嫌な訳じゃないけど。
    それにミクさんが好きなのは俺じゃな…って別にミクさんが誰を好きであっても
    僕にとっては全く!何の!感慨も感じないないんだけど!!あこがれだし!!

    …とにかく。僕はミクさんに物を頼まれると断れない。
    というか無意識に瞳を潤ませ、首をかしげてお願いするミクさんを拒絶する奴が
    居たとするなら、是非一目…否、すぐさまミクさんに謝れとどやしてしまうだろう。


    そういうわけで、いつも通りミクさんの頼みを断れなかった僕は、
    VOCALOIDフォルダのリビングに備え付けられたソファの上、
    ミクさんと真っ正面に向かい合いながら座っていた。
    「ごめんね、レン君。他にお願いできる人がいなくって」
    「いえ、気にしないで下さい」
    にっこり笑って返す僕の両腕には、薄青の毛糸が束が引っかけられている。
    若干涼しくなってきたとはいえ、編み物の季節にはまだまだ早い。
    事実、毛糸が触れている僕の腕部分にじっとりと湿気を感じる…
    こんな事だったらアームカバー外さなきゃ良かったと、後悔しながら
    僕はミクさんに問いかけた。

    「…ええと、それで、僕はこのままじっとしていれば良いんですね?」
    「うん。これから毛糸玉を巻くの。なるべく早めに巻いちゃうからね!
    レン君は毛糸が絡まないように持っててくれればいいから!」
    そう言うと、ミクさんは自らの片手につまんだ毛糸の端と
    宙に浮かんだウィンドウを必死になって見比べ始めた。
    そして、やっと動き始めたその手つきは…すごく。ぎこちない。
    僕が毛糸を絡まないようにするために、腕をあげているのが悲しくなるくらい、
    ミクさんの手の中では、毛糸が徐々にカオスを形成し始めている…
    「あの…ミクさん。」
    「………え?なぁに?何か言った?」
    よほど集中していたのだろう。
    音には酷く敏感なはずのミクさんにもかかわらず、
    僕の声に反応したのは一拍おいてからだった。
    それほど一生懸命になっているという事実に、僕は申し訳なく思いながらも、
    僕は自分の腕、というか肩の健康のため、意を決して口を開いた。

    「役割、交換しません?」



    ミクさんの腕に幾重にも回された毛糸を、僕は規則的な動きで巻き取っていく。
    「…ごめんね…本当は自分で何とかできたはずなんだけど…」
    「大丈夫です。コツをつかんだら後は単純作業ですし、
    実はこういうの、結構得意なんですよ。」
    実際、単純作業は死ぬほど嫌いなんだけど…こうしてミクさんと二人、
    向かい合ってゆっくり話ができるというのなら、…悪くはない。
    僕は手を止めないまま、手元からミクさんへ視線を向けた。
    「ところで、この毛糸で何作るんですか?」

    「え!?…え、えっとぉ…」
    不意に、ミクさんが口ごもる。
    何か、僕、まずいことでも聞いたんだろうか?
    「あの…その……マフラーをね?…作ってるの…」
    なんて、消え入りそうな声で頬を染めながら話すもんだから、
    この毛糸が将来的にKAITO兄さんへのプレゼントになることなんて、
    誰が見たってすぐに見当がついてしまう。
    …いっそのこと、あのままカオス玉にしておけば良かったかもしれない…
    釈然としない気分のまま、僕はぼそりと呟いた。
    「でも、せっかく作るなら、もう兄さんの持ってるマフラーとかじゃなく、
    セーターとか、帽子とかの方が喜ばれるんじゃないですか?」
    まぁあの兄さんのことだから、「ありがとう、うれしいよ」とか笑って、
    今のより、ミクさんの手作りの方を喜んで身につけるのだろうけど…

    「…う、うん。そうは思ったんだけど…一番かんたんだったから…」
    視線を落としたまま、ミクさんは呟くような声でそう言った。
    確かに、色々と部品作らなきゃならない他のものより、
    一直線のマフラーの方が簡単にできることには違いないだろう。
    「なるほど。じゃぁ、去年は何を作ってたんですか?」
    「え?!」
    ミクさんの驚いたような顔に、僕は思わず尋ね返していた。
    「いや、去年の今頃も編み物してましたよね?と思って…」
    まるで、僕が去年からずーっとミクさんの事を観察しているかのような物言い。
    事実、言い終わってからしまった!と思ったけれど、一度出た言葉は戻らない。
    絶句したまま…心なしか青ざめた感じで僕の方を見つめるミクさんを見て、
    僕の頭から音を立てて血の気が引いていく…

    違うんです違うんです。僕はストーカーなんかじゃないんです!
    ちょっと視界に碧色が写ると、ちょっとそっちを向いちゃうとか、
    貴方の鈴を鳴らすような声が聞こえると、そっちの方向に注意を向けちゃうとか、
    その、無意識なんです!無意識のあこがれから来る自然な行動であって
    やましい気持ちとか一切無いんで…

    「マフラーよ」
    僕が必死に言い訳文を脳内校正をしているところに、突然声が降ってきた。
    慌ててその声の方へ顔を向ければ、ちょうど仕事から帰ってきたMEIKO姉さんが
    入り口の扉の前で腕を組んでいた。
    「去年からずーっと同じマフラー編んでるのよ。…いや、もう一昨年かしら?」
    ハンドバッグを持ち直し、リビングを突っ切りながら言葉を続けるMEIKO姉さんを
    ただただ呆然と眺めてから、僕はそのまま顔を真正面に戻す。
    真向かいのミクさんは、顔をこれ以上ないって程に真っ赤に染めていた。

    「~~~~~~!!…お姉ちゃん!なんで言っちゃうの~~っ!!」
    「別にKAITOに言ったわけじゃないし、約束破ったことにはならないでしょう?」
    キッチンから、再びリビングへとワンカップ酒片手に戻って来たMEIKO姉さんが
    僕らの左手にある三人がけ用ソファの中央にどっさりと腰を下ろす。
    …どうやら、今日の仕事は完全に終ったらしい。
    そんなくつろぎモードに入っているMEIKO姉さんに対し、ミクさんは、
    非常に珍しいことに、顔色を変えて怒っているようだった。
    「そうじゃないもん!なんでレン君にばらしちゃうの!?恥ずかしいのに!!」
    「恥ずかしいって…別に一本のマフラーに何年かけてたっていいじゃない」
    「よくないもんっ!!」
    のらりくらりとしたMEIKO姉さんへの追求は無駄と悟ったのか、
    翡翠の瞳に大粒の涙を溜めながら、ミクさんは突然僕の方へと顔を向けた。
    「レン君!!」
    「は、ハイ!」
    いつもとまるで違う、威圧感を感じさせるミクさんの声に、僕は思わず背筋を正す。

    「いい!?この事っ!リンちゃんやルカちゃんやがくぽさんやGUMIちゃんっ
    それから絶対の絶対の絶対にお兄ちゃんにダケは言っちゃ駄目だからねっ!」
    「は、はい…」
    威圧感に飲み込まれそうになりながら、僕がどうにかそう呟いたのと、
    この騒動の最中も黙々と動き続けていた僕の腕(これがアプリの良いところだ)が
    毛糸を全部巻き終えたのはちょうど同じタイミングで…
    「手伝ってくれてありがとう」の声もそこそこに、僕の掌にできた
    毛糸玉をひったくると、ミクさんは自分のフォルダへと逃げて行ってしまった。


    「まーまーミクったらすっかり照れちゃってー」
    カップを傾けながら、MEIKO姉さんが全然反省のない顔で言う。
    「…いいんですか?ミクさんの機嫌、損ねてしまって…」
    暫くの自失の後で、ようやく立ち直った僕はMEIKO姉さんに問いかけた。
    せっかくミクさんと二人っきり、まぁ妙な空気にはなっていたものの、
    とにかくいっしょにお話ができていたというのに…と。
    どことなく、発言が非難がましくなってしまったことは否めない。
    聡いMEIKO姉さんがそんな僕の感情に気付かないはずが無く
    思い切り人の悪い笑みを浮かべると、ソファの腕置きに両肘をついて
    こちらの方へ身を乗り出してきた。
    「可愛い弟のイチャイチャタイムを邪魔しちゃったことは謝るけど?」
    「い、いいちゃいちゃ…って、そんなんじゃないですよっ!!」
    そう僕が言い終わった直後、MEIKO姉さんの赤い唇がニヤリと歪んだ。

    「じゃぁさ…お姉さんとイチャイチャしてみる?」

    間近で囁かれ、今度は僕が顔を真っ赤にして、思わずソファから飛び退いた。
    薔薇の花束みたいな濃い香水の香りと質の悪いアルコールの匂いが嗅覚に来て…
    うっわ…まだ首筋がぞわぞわしてる…

    そんな僕の反応を完全に楽しでいるのか、
    MEIKO姉さんはソファの背もたれに寄りかかり直すと大きな声で笑い出した。
    「わ、笑い事じゃないですよ!こっちは真剣に心配してるのに!!」
    「あーゴメンゴメン。KAITOだと最近そういう反応してくれなくってさー」
    恥も外聞もなくケタケタと笑っているその姿を見てると、
    さっきの誘惑…でいいんだよな、に真面目に反応した自分が情けなくなってくる。
    というか、以前はKAITO兄さんも僕と同じ反応をしていたのかな…
    …僕もいつか、あの境地へたどり着くことができるのだろうか…

    「もぅやだ、レンったら。そんなに落ち込むことないでしょ?」
    遠い目をして考え事をしていた僕のことを、MEIKO姉さんは
    どうやらさっきのイタズラで落ち込んでしまったと思ったようだ
    バンバン肩を叩いて慰めてくれているのだが…正直ちょっと痛い。
    ひょっとしたら少し酔っぱらっているのかもしれないけど。
    僕は気を取り直して、MEIKO姉さんに尋ね直した。
    「まぁ、そのことはもう良いですから。…そのミクさんのこと…」
    「レンキュンはおねーさんよりミクちゃんがだいじなの?」
    「だからぁそういうのじゃないですってばっ!!」
    わざとらしいまでの上目遣いと媚びるような高音に、悲鳴を上げると
    MEIKO姉さんはようやく飽きてくれたらしく、再びソファに背を預けて
    いつもの調子でしゃべり出した。

    「…まぁ、ミクにはいい加減本気で完成させてほしかったし。ちょうど良かったわ」
    「本気…ですか?」
    十分真剣に見えましたけど、と僕が続けようとするのを片手で遮って
    MEIKO姉さんは「そう言う意味じゃなくって」と続けた。
    「あのマフラーはミクがリリースされてうちに来た最初の秋に編み始めたの。」
    思いもかけない言葉に、僕の頭が一瞬計算処理を放棄する。
    「最初の…って、僕らのリリース前の秋だから…一昨年…?」
    「そうよー。2月にKAITOの誕生日があるって聞いてそれに向けて始めたのよ。
    あの子が道具揃えるのも手伝ったし…一昨年の今頃、さっきのレンみたいに
    毛糸玉作ってやったのは私なんだから」

    あぁ、やっぱり…ミクさん自力で毛糸玉作ったこと無かったんだ。
    あのぎこちない手つきに納得しつつ、僕は浮かんだ疑問をMEIKO姉さんへぶつける
    「でも、ミクさんいつも忙しいし…時間がかかって当たり前では?」
    「そりゃ、忙しくてなかなか進まないってのはわかってるけど、
    いくらなんでも3年かけて完成しないのは異常でしょ?」
    実際、興味がないからわからないけれど、確かにあの直線の布を編むのに
    3年とかそれぐらいの時間が平気でかかってしまうのならば、
    これほど編み物は普及してこなかっただろう事は想像がつく。
    僕が納得したのを見て、MEIKO姉さんは更に続けた。
    「だからね。この間本人に聞いたのよ。
    あのマフラーどうしたのって、そしたら…」
    言葉を言いかけて、MEIKO姉さんは唐突にため息を吐いた。
    あぁ、なんかちょっとわかった気がする…
    「…編んでる途中で毛糸がもつれちゃってほどけない。って涙目」

    想像に難くないというか、なんというか、涙目でMEIKO姉さんに縋る
    ミクさんの姿が容易に思い描ける…
    想像でこれなんだから、実際に体験したMEIKO姉さんは、
    今まさに生々しくその光景を思い出しているのだろう。
    すっかり疲れ果ててしまった声がリビングに響く。
    「いつからって聞いたら結構前だとか言うし、
    なんで私に解いてって言わなかったのって叱ったら
    解こうと必死になってたら酷くなっちゃった、今更人に見せられないって…」
    ワンカップを机においてから、MEIKO姉さんはがっくりとうな垂れた。

    「…あんな青アフロ初めて見たわよ…何かの魔物かと思ったわ」

    「魔物…ですか…」
    毛糸が絡んで何故魔物に見えるんだと普通なら笑い飛ばせるところだが、
    それがミクさんの創造物であった場合、普通に比喩でない可能性がある。
    僕としてはできることなら、単なる比喩であることを願ったのだが…
    「ええ。どこのゴミスクリプト取り込んだのか、うごうご動くし。
    近くに手頃な大きさプログラムが近づくと捕食もするし。」
    「それちょっとした生物に進化してません!?」
    なんでただの毛糸編むだけでがそれが生物に進化するんだよ!!
    やっぱりミクさんあなたただ者じゃないよ!!

    「まぁ、それ以前にも度々絡まったりなんなりしてたみたいね。
    たいてい、はちゅねがすぐに直してくれてたようだけど。」
    「アレ、結構器用だったんですね…」
    ぱっと見る限り必要以上に丸みを帯びた手を持つ、
    ミクさんの下位プログラムを思い浮かべ、僕はしみじみと答える。
    「そうね。その青アフロ解体中に中からぐったりした姿で出てきたわ。
    いつも通りに解こうと思って…そのまま捕食されたのね。」
    「大丈夫なんですかそれ!?」
    最近見ないなぁとか思ってたらそんなところにいたのか!
    「一応動いてたから大丈夫。ただ、毛糸にはおびえて近づかなくなったけど」
    「…可哀想に」
    正直なところ、僕とはちゅねとは何の接点も思い入れみたいなものもないけれど、
    同じ情報体として、突然異質のプログラムに捕食され取り込まれてしまうという恐怖は
    身つまされるし、素直に同情もできる。
    今度会ったら頭ぐらいは撫でてやろうかな。バナナやったら喜ぶかな。

    「ま、そんなわけだから。いい加減その謎の物体は解体廃棄処分にして
    新しいのを一から始めなさいって話をしたのよ。」
    ワンカップを手に取ると、MEIKO姉さんは場を変えるような明るい声をあげた。
    「今度は『一からわかるマフラーの編み方』をダウンロードしてあげたから
    あそこまで酷い物ができあがるってことはないでしょう。」
    胸を張って答えるMEIKO姉さんをぼんやりと眺めながら、僕はふと、
    ミクさんが自ら毛糸玉を作ろうとしていたときに見ていたデータを思い出した。
    怪奇生物にはならずとも、ブラックホールぐらいは覚悟した方が良いかもしれない

    「KAITOもさ、知らぬ振りするのそろそろ限界みたいで、
    なんというかお手伝いしたくてイライラしてるみたいだし…
    あぁもう、ミクってば本気でさっさと完成させてくれないかしら。」
    KAITO兄さんが手を出したがってるのは、ミクさんの手伝いがしたいとかでなく
    純粋に、さっきの怪奇生物の出現を危惧したからなような気がする…
    そして、完成したらしたできっとそのマフラー(便宜上)がいろんな意味で
    想定外の騒ぎを起こすに違いない。と、確信めいた予感も感じているのだろう…
    その時が来たとして、非力な僕ではきっとミクさんを守ることはできない。
    きっといつものように、がくぽさんが斬り、ルカが纏め、KAITO兄さんが
    格好良く美味しいところをさらって行くに違いない。
    で、あるならば…
    僕はミクさんの部屋(フォルダ)の方を眺めた。
    「…MEIKO姉さん。」
    「なぁに?」
    「ちょっと用意して頂きたいものがあるんです。」




    僕は後ろ手にある物を持って、ミクさんのフォルダの前に立っていた。
    こうしてミクさんの部屋の前に立ったことは何度もあるけれど、
    中に入ろうとしているのは…ひょっとしたら初めてかもしれない。
    いや、僕らはアプリケーションだし、勝手に相手の領域(テリトリー)に
    入っちゃまずいからって言うか…うん。まぁ…意識するなって方が無理だよ。
    でも、僕はなんとしてでもこの中へ入らなきゃならない。
    こういうのは勢いだってさっきMEIKO姉さんが、笑いながらも言ってたし。
    ちょっと頬が熱くって喉が妙に渇いてくるのを必死で押さえながら
    僕は手早くドアをノックし…迷わずノブを強く押し込んだ。
    「レンです!ミクさん、失礼します!」

    勢いに任せてなだれ込むように入ると、
    部屋の中央に敷かれたラグの上にミクさんが座り込んでいた。
    膝の向こうに見える幾束もの青い毛糸。手には編み棒、そして
    部屋の隅ではガタガタ震えるはちゅねみく…

    「え、あ?…ど、どうしたの??」

    目をまん丸くしながら、ミクさんはやっとの事で声を出した。
    あたりまえだ、突然、何の連絡もなく、僕みたいなのが入ってきたんだから。
    それが、僕が部屋に入った事への拒絶でないことに少しだけ安心して、
    僕はなるだけ穏やかに、そしてちょっとだけ済まなそうに話し出した。

    「さっきは変な事聞いてすいませんでした。それで、ちょっと思ったんですけど」

    大きく息をはいて僕は背後に隠してあったカゴを、ミクさんに見えるように
    前へと差し出す。その中にはMEIKO姉さんに用意してもらった
    毛糸玉と編み棒が入っている。
    「編み物、おもしろそうなんで、僕も始めてみようとおもったんです。
    で、せっかくだから、ミクさんにちょっと教えてもらいたいなと思って…」
    自分にプログラムされた最高の笑顔を向け、僕は言った。

    「ミクさん。【一緒に】つくりませんか?」

    僕の提案にミクさんの表情が徐々にゆるんでいき、
    やがて満面の笑みになってから「うん!」という大きな声が部屋に響いた。


    こうして、僕は、あこがれのミクさんと仲良く編み棒を動かしつつ
    ひっきりなしに絡まる毛糸を解いてあげたり、お話ししたり、
    時には一緒に出かけたりと、まぁ、充実した日々を送っている。
    何も知らないリンは乙メンだ!乙メンがいる!!と騒ぎ立てるし、
    相変わらずガタガタ震えているはちゅねをあやすKAITO兄さんが
    まるで苦虫を噛みつぶしたかのような顔で時折こちらを見ていたり、
    事情を知るMEIKO姉さんが冷やかしてきたりもするが…

    僕はただ、ミクさんを襲うであろう惨劇の予防に努めているのであって、
    何らやましいことはないのです。




    めでたしめでたし


    不憫の代名詞だったレンが不憫じゃない話。
    『魔法使い』で兄に完敗を期したレン。ついに一勝。

    ボカロ一家の男性陣はおしなべて器用なイメージがあります
    本文中「死ぬほど嫌い」と言いつつも、レンは忍耐力のある子なので
    単純作業とか、実はものすごく得意だと思う。RPGのレベル上げとか
    でも、そう言う作業ばかりリンに押しつけられてしまっているので
    きっと死ぬほど嫌いなんだろうなぁとか

    あと…はちゅねにトラウマができました。(ヲイ
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