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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2017 . 09
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    ※カイミク色が非常に強めのお話です
    説明不要の名曲「サンドリヨン」からインスパイヤーなお話。
    夜中のノリで描いたのでちょっと色々と閲覧注意な事になってます。
    個人的にはR-15

    また、
    ・軽く性的描写有
    ・流血
    ・とにかく救いようがない。

    等の理由により、読む方によってはかなり不快な気分になるかもしれません。
    著者が以前書いたCantarellaBadEnd1 BadEnd2 より、
    ある意味酷いことになってるので、上記作品が無理な方は閲覧をご遠慮ください。





    女たるものは、つねに男たちの運の行く手に立ちふさがり、
    かつ不幸なる方へ導く
    エウリピデス(B.C.480? - B.C.406)


    Cendrillon
    -若しくは別の終幕を迎えた先にある一つの可能性




    「王からの勅命?…どうせ碌な物ではあるまい。」
    遠乗りから戻ってきたばかりの王子は、ブーツの泥落とすなりそう口に乗せた。

    生まれと同時に母を亡くし、愚鈍で女好きの父王とはほとんど顔も合わせることもなく、
    王宮の隅にある館で静かに暮らしてきた彼に、父である王からの勅命がもたらされたのは、
    まだ夏も始まったばかりの昼下がりのことだった。

    彼の母は正妃ではなかったが、その飛び抜けた美貌は当時の社交界でも比類無く、
    当時の王太子は既に妻が居たにもかかわらず、文字通り手段を選ばずして
    彼女を手に入れたのだと聞いている。
    そんな若き頃の王の強引な手段のしわ寄せは、彼女とその息子である王子に及んだ
    無理な婚姻が祟ったのか、母は結婚後、王子一人を忘れ形見にこの世を去り、
    生まれた王子は、母のために作られた、まだ出来たばかりの館に押し込められた
    そして、十数年にもわたり、彼は王宮内、社交界から冷遇されてきたのだ。
    「王を狂わせた毒婦の子」「サキュバスの息子」「魔性の女の血を引く者」
    社交界の裏で囁かれる、彼を卑下し愚弄する言葉は今も尽きることがない

    しかし、それであっても、彼が王宮内にいることを許されてきたのは
    単に、王の血を引く「男子」が、彼唯一人しか存在しなかったことにつきるだろう。
    おびただしい数の妃と愛妾を抱える王にもかかわらず、生まれてくるのは姫ばかり。
    その数がなんと二桁を越えた頃にもなると、宮廷内では「何かの呪いに違いない」と
    怪しげな魔術や祈祷に傾倒する者さえ現れる始末…
    そんな王宮内の愚行を憂いた幾ばくかの側近達は、揃って王に直訴したのだ。

    「忘れられた王子を婚姻させ、正当な後継者として指名しましょう」と

    暗君であった父王と異なり、腐敗した王宮とは隔絶された世界で育てられた王子は
    聡明な頭脳と群を抜いた剣の腕。そして、母譲りの美貌とカリスマを兼ね備えていた。
    正当なる王家の血より、名家で知られる母の血筋が強く現れた彼について、
    反王子派の人間達は陰で「本当に王の息子であるか疑わしい」とまで評している。
    もっとも、それは王の血筋が劣っていることを示すに他ならないため
    表だってそのようなことを言い出す者はいなかったのだが…
    ともあれ、少なくとも「王妃の息子」ではある彼に一刻も早く「妃」を娶らせ、
    無用な混乱の起こる前に、正当な王の後継者であることを内外に示すべく、
    王宮の文官達は水面下で動き始めていたのだ。


    「…その結果がこれか?」
    部屋に戻った王子は、執務机の上に置かれた一枚の紙を指ではじいた。
    それは、傀儡と化した父王からの勅命であり、
    王の代筆を担っている或る側近の几帳面な書体が横たわっていた。
    曰く、王子の妃を定めるべく舞踏会を開催する故、心得ておくように。と

    「王の側近達はよほど焦っていると見えるな。
    自ら厄介払いをしてきたこの私を、社交の場へと引っ張り出したうえ、
    その場で妃を定めるとある…どうやら、王の身はそう長くは持たないようだ。」
    「め、滅多なことをおっしゃってはなりませぬぞ…」
    長年彼に付き従ってきた従者が複雑な面持ちで苦言を呈す。王子は肩をすくめた
    「事実だろう?長年の酒と不摂生が祟って、王は既に文字すら書けぬと聞く。
    そんな状況にもかかわらず、後宮は相も変わらず浪費を続けて国庫を食いつぶし、
    国外では南の異教徒が戦の準備を続けている。散々私腹を肥やしてきた文官も
    国が滅びてしまってはどうしようもない。だから私を担ぎ上げようと躍起なのだ」
    自嘲じみた王子の言に、従者も何も返さなかった。
    立場上肯定することは出来ないが…否定することも出来ないのだ。
    そんな従者に王子は無言で退室を促した。頭を垂れて従う従者を視線だけで送り、
    王子は執務室の壁に掲げられた巨大な肖像画を見上げた。
    そこに記されていたのは、女神のごとき美貌をたたえた…彼の母親の肖像。
    明るい紺碧の瞳を細め、王子は恍惚とした表情で独白した

    「あぁ母上…貴女様がお元気でさえいらっしゃれば…」



    その日、広大な王宮の中央に建てられた大宮殿には、
    普段以上に、華麗で、煌びやかな空気に満ちあふれていた。
    国王が自ら主催した大舞踏会。しかも、その目的はただ一つ、
    今まで表に出る事の無かった、美貌の王子の妃捜しだという。

    鏡張りのホールには国内外を問わずに集められた美しく若い娘達と、
    あわよくば王子のお零れに預かろうという若い貴族達が集い、
    そして傍では後宮の噂好きな子女達が、扇越しに若い彼らを値踏みし、
    名のある大貴族は、衆目を前に自らを誇る美麗字句を並べ立てている
    それらを一望する玉座に、国王はもたれ掛かるように座っていた。
    でっぷりと突き出した腹と、脂肪に包まれた首を億劫そうに動かして、
    国王は傍らの宰相に問いかけた。
    「…アレは、まだか?」
    「はっ。そろそろ、コチラにおいでになる頃かと…」
    礼典用の赤い衣装を纏った宰相が、内心冷や汗をかきながら答える。
    未だ現れていないのは、この場に最も居なければならない王子本人だ。
    舞踏会は主人不在のまま、ただ楽団の流す音楽を背景に、
    参加する者達の雑談が流れるばかりの場となり始めている。

    本来ならば、もっと年若いうちに行われるべきだった王子のお披露目
    そして、政治的な取引のもと、国益に基づいて定められるべき王子の妃。
    後宮や貴族の反発を理由に、今までわざと先送りにしてきた事とはいえ、
    一つの舞踏会でそれら全てを行うなど前代未聞の所行なのだ。
    そんな異例ずくめの舞踏会だというのに、その主役が不在とあっては
    只でさえ斜陽となりはじめた王国の威信に傷がつきかねない…
    そう思い至った側近達の貌が青ざめはじめたとき、
    ホールの大扉に控えた近衛兵が朗朗と響く大声で、待ち望んだその名を告げた。

    王子を迎えたのは、歓迎の拍手…次いで息をのんだ人々の静寂だった。

    純白の正装に身を包んだ王子は、臆することなく衆目の前に立っていた。
    間接照明の中でも艶やかに輝くの明るい紺碧の髪、襟間から覗く陶器のような肌、
    紅を引いたような薄い唇、きつく切れ上がったまなじり、色好みする膨らんだ二重、
    くっきりと長い睫、見た物が気恥ずかしさすら覚えるその容貌、
    そして何より、一度見たら脳裏に焼き付いて離れえぬ、鋭い輝きのその青瞳…
    調和の取れたその理知的な表情から、高い知性も容易にうかがい知る事ができる。
    まるで御伽噺の挿絵からそのまま抜き出したかのような王子の姿に、
    若い女は甘い吐息を零し、男達は絶句した。

    王子は呆然と立ち尽くす人波を、古代の聖人のように腕の一降りで退けると
    悠然と歩みを進め、父王の隣の玉座へと、これまた優雅な動きで腰を掛ける。
    富を吸い上げては無様に浪費し尽くした無様な王と、横に座る若々しく、
    そして覇気すら感じさせる美貌の王子の対比は、その場にいた全ての者に、
    雷撃に打たれたかのような衝撃を与えた
    水を打った静寂が広がるの中、ハッと我に返った一人の祭典官が、
    慌てて舞踏会開幕の勅命を読み上げる。舞踏会は、熱狂のうちに始まった。



    挨拶と称して次々に言い寄る娘達を、王子は冷めた瞳で退け続けていた。
    我が国の貴族令嬢は言うに及ばず、長い伝統を誇る小国の公女。大商人の愛娘。
    果ては、誰が通したのやら、大貴族の寵愛を受けている踊り子までが彼の前に現れた。
    側近が読み上げる女達の出自を聞きながら、目前で期待に瞳を輝かせる娘達に
    王子は短い労いの言葉のみをかけると、機械的に次の娘をと指示を出す。
    その瞬間、絶望に顔色を曇らせる者もいれば、溜めた涙で気を引こうとする者、
    気丈に一礼を返して去っていく者…中にはなかなか場所を動こうとせず、
    その場を動かそうと腕を掴んだ近衛兵にヒステリックにわめき立てる者すら現れる
    しかし、そのどれもそれ以上王子の気を引く事はできなかった。

    舞踏会も中盤の頃合いを迎え、王子への挨拶を求める娘達もようやく半分をすぎた頃。
    王子は、辟易しながらふと壁際へと視線を移した。
    挨拶を待つ娘達の列の先、談笑する貴族のその向こうに、一人の少女が立っていた。
    力を入れて抱きしめれば折れてしまいそうな華奢な体つき、遠目にもはっきりと分かる
    何処か幼さを感じさせつつも、はっきりとしたその美貌。腰まで伸びた濃い瑠璃の髪…
    王子は止める側近の声を無視し、玉座から舞うように駆け下りた。

    「君の名は何という?」
    壁際の少女は、最初何が起きたか分からぬようだった。
    しかし、目前に立つその人物が、先程まで玉座に座していた王子本人と気付いた途端
    その可愛らしい頬を染め、ドレスの裾を摘むと深々とその小さな頭を下げた。
    「お初にお目にかかります。北方より参りました…サンドリヨン(灰かぶり)と申します」
    明らかに付け焼き刃であろう、ぎこちない一礼も王子の気を害する事はなかった。
    それどころかどこか純粋さを感じさせる少女の仕草に、王子はかえって好意を持つ
    しかし、それとはまた別に、王子の興味は少女のその奇妙な名に向いた。

    「灰かぶり(サンドリヨン)?…ずいぶんと愉快な名前だな」
    王子は高らかな笑い声を上げた。それは決して少女を侮蔑するような響きではなく、
    むしろ少女に心を許しているかのような柔らかいものではあったのだが、
    このような衆人環境。ましてや、その注目の的である王子を目の前に、
    この人慣れぬ少女がそこまで思い至るはずもない。
    たちまち萎縮してしまった少女の姿に、王子はすぐにその笑いを収めた。
    「いや、すまなかった。どのような理由であれ人の名を笑うとは礼を欠いた行為だ。
    どうかこの無礼を許して頂きたい。」
    「…い、いえ、いえ…私は構わないのです。どうぞ、お顔をお上げ下さいまし…」
    あろうことか深々と頭を下げた王子の姿に、少女は驚いたような声を上げる。
    固唾をのんでこちらを見守る周囲の驚愕と嫉妬のこもったざわめきに、
    王子は憎々しげに舌をうつと、少女にだけ実に悪戯めいた笑顔を見せた。

    「ありがとう、優しい君。そういえば、貴方は北方から来たと言ったな。
    実は私の母も北方育ちと聞く。だが、あいにく私はこの王宮から出たことが無いのだ
    貴方さえ良ければ、私の母が暮らしたという美しい地方の話を伺いたいのだ。
    …ここは、衆目が多すぎる。控えの間まで、来て頂けるかな?」
    「え?」
    少女は再度驚いたようにその瑠璃色の瞳を見開いた。
    次いで、コチラを見つめてくる幾百もの視線に所在なさげに身を小さくする。
    「彼らの事は気にしなくても良い。貴方が望めば、全員この場から追い出しても構わない」
    そう言いきった王子の言葉に、少女はビクリと震え…そして小さく頷いた。


    多くの羨望とそれ以上の呪詛のこもった視線に見送られ、王子と少女は場を後にした。
    礼典用の制服を着た近衛兵が、二人の目前に聳えるかのような巨大な扉を開く
    そこは、宮殿内に用意された王子の新たな執務室だった。
    固く縮こまる少女を来客用の長椅子に座らせ、王子はその隣へと腰掛ければ
    花の香りのする茶を用意して、メイドは静かにその部屋を去っていった。
    残された二人のうち、最初に声を出したのは王子だった。
    「これは私の母が好んだお茶だ…これを飲むと、私も気分が落ち着くよ。」
    ティーカップを片手に、王子は柔らかい声音で呟く

    「…私の父も、このお茶が大好きでした。」
    何気なしに零した一言に対して隣の少女が答えた事に、王子は目を見開いた。
    隣へと視線を向ければ、先程まで極度に緊張していた少女の表情がやんわりと解れ
    花のような笑顔をこちらに向けている。…王子は、息をのんだ。
    「これを飲むと気分が落ち着く。とおっしゃっていて…………あぁ、懐かしい…」
    咲き誇るような笑顔の中に、遠くを見ているかのような、寂しげな視線を見て取って
    王子はそっと、少女に尋ねた。
    「君の父上は…?」
    少女は、王子の予測通り小さく首を横に振った。そして、思いもよらぬ言葉を続けた。
    「お父様は一昨年の春に亡くなりました。
    元々中央での政に負け…北の領地に流されていた人だったので…
    私は他に身よりもなく、父様の死後は大叔父の下、小間使いとして働いておりました
    …ですから、このお茶をまた口にできるなんて」
    まるで大切なものを包むようにティーカップを両手に抱えた少女の表情は
    何処までも、純粋な喜びで満ちあふれている。

    一方の、王子は怒りに震えていた。
    いくら政権争いに敗れた者の娘であろうと、貴族の子女を小間使いに使うとは!
    元々の苛烈な性格が彼の怒りを煽り立てる中、王子は一つの確信を持って少女に尋ねた。
    「もしや、サンドリヨン(灰かぶり)の名は?」
    「…大叔父の館に入ってから付けられました。小間使いに家の名は必要ない。と
    今日も、実は大叔父達には内緒で参ったのです。ある親切な方々にお手伝い頂いて…」
    ふと、少女は言葉を止めた。そして、己の傍らで怒りに震える王子の手を取ると
    愛おしげにそれを自らの両手に包み込んだ。
    「私などの為にお怒りいただけたのですね?ありがとうございます」
    そんないじらしい少女の言動に、王子はその手を振りほどいた。
    「お前はそれで良いというのかっ!?」
    王子は感情の赴くままに、容赦なく少女を怒鳴りつけていた。
    しかし、すぐさまその理不尽さに気がつくと、慌てて謝罪を述べるべく口を開きかけ…
    だがその先は、他でもないその少女自身に止められた。
    少女は何度も首を横に振り、悲しそうな微笑みを王子の方へと向けている。

    唐突に、王子はやるせなくなった。
    何が王子だ、何が唯一の正当王位継承者か
    この一夜が終わり館へ戻れば、彼女はこの美しい女神のような姿から
    再び小間使いの灰かぶり(サンドリヨン)に戻ってしまう
    それすら止める事のできない無力な男に他ならないじゃないか
    王子は天を仰ぎ、そしてハタと動きを止めた。
    …彼女がここに来た理由、その原因である舞踏会の真の目的を思い出して…

    王子は無表情のまま少女の腕を乱雑に掴み、立ち上がった。
    「奥へ」
    促された少女は、頬を染めて頷いた。



    天蓋の下でひときわ高い声を上がり、やがて、再びの静寂が満ちていく。

    緊張と弛緩を繰り返した身体をだらりと横たえ、
    それでも健気に呼吸を整えようとしている少女を、王子は満足げに見下ろした。
    だが、そんな少女の視線が天蓋の外の一点を見ていることに気づき、
    王子はあからさまに不機嫌な顔で少女の視線を追う。
    倒れた少女の視線の先には、憂いを浮かべる女神の姿があった。

    「…気になるのか?…あれは私の母親の肖像画だ」
    少女の細い腰に片手に這わせながら、王子は得意げに微笑む。
    そんな彼らを見下ろすかのように、壁に掛けられていたのは
    寝室には不似合いなほどに巨大な王子の母の肖像画だった。
    翡翠の長い髪を二つに分け、憂いを浮かべた表情は、
    確かにこの王子の横顔に何処か重なるもがある…

    「…きれい…」
    少女は、擦れた声で小さく呟く。その言葉に王子の笑みが深くなった。
    「ああそうだ。とても美しい。そして…とても君に似ている」
    肖像画よりやや色の濃い瑠璃の髪に口づけながら、王子はその位置をずらしていく
    爪先を、腿を、腰を、腹の下を、上を、ひたすらに、敬うように動いていく唇が
    少女の口に達したところで、少女は初めて恥ずかしげに顔をそらす。
    王子は愉快そうに顔をゆがめた。…唇への口づけは、どうやらさせて貰えぬらしい。

    古来より唇への口づけは、神の前で愛を誓った者のみに許されると聞くが…
    彼女もそう言った迷信の信徒のようだ。馬鹿馬鹿しくもあるが、
    そんな虚構に振り回されている姿すら愛おしいと感じるのだから
    誠に馬鹿馬鹿しいのはどちらであるかは明白だ。王子は一人、低く笑う。

    王子は彷徨わせた唇を少女の鼻先に落とし、静かに瞳を閉じた。
    少女がおずおずと彼の背中に手を回し、その両腕で男の身体を締め付ける
    王子の広角の端がつり上がる。瑠璃の髪の生え際に指を差し入れ、
    反らせたみずみずしい首筋に軽く歯を立てようと口を開く…


    その時、高らかに、時を告げる鐘が鳴り響いた。
    王宮全てに、そして遠く海の彼方にまで届く、高く低く澄んだその音色…


    しばし鐘の音に耳を澄ませていた少女が、おもむろにその小さな唇を震わせた。
    「…あなたは、父によく似ている」
    少女の唐突な言葉に、王子は不快感を隠そうともせずその眉をひそめた
    「私が?あの愚鈍な王にか!?」
    声を荒げる王子の下で、少女は小さく首を横に振る
    「いいえ、違います。」
    延ばされたしなやかな腕が王子を縛り付けた。
    濡れた脚が絡みついて、躊躇う男の身体を刺激する。
    どさりと…少女は王子に覆い被さるようにして、妖艶に笑った。

    「瞳も、眦も、鼻筋も…髪も、項も…指先も…お父様によく似ているのです…」
    口にした箇所を猥らな指先で撫でながら、少女は夢見るように目を伏せた。
    裸の胸にきつく顔を押し付けて、零れる心音を、一つも聞き逃すまいとするように、
    少女は溜息のような声で囁いた。
    「最期まで、私を見てくださらなかったお父様。最期まで、お母様を見ていたお父様」
    のしかかった少女の腕が王子の全身を這い回る…
    王子が低い声で呻いたとき、僅かに動いた視線を、少女は見逃さなかった。
    「…貴方も、やはり、お母様しか見えていらっしゃらないのね?
    私は、やはりお母様の替わりでしかないのね?そうなんでしょう?」
    驚愕か、怒りか、目をむいた王子の口を、少女は素早くその手で塞いだ。

    「でもいいのです。すぐに私のことしか要らぬようにして差し上げます…」
    その言葉が終わるや否や
    寝台の端に脱ぎ捨てられていたペチコートから、鋭い銀光が弧を描いた
    とっさに王子も身体を動かそうとするが…
    身体の上にのし掛かられていたのでは、まともに動けるはずもない。

    少女の掴んだ短剣の切っ先がリネンのシャツと王子の肉を切り裂き、緋色の花が咲く
    王子の上げるべき苦悶の声は、不自然に合わされた少女の掌中に消える
    それでも、尚、生に執着すべく、ベッド脇の剣へと伸ばそうとする王子の手を、
    少女は憎々しげに一瞥し、赤く染まった寝台へとその短剣で縫い止めた。

    天蓋の下、くぐもった苦悶の声が響く。
    「どちらへ行かれるの?もっと私の事を見て下さいませ。」
    そう言って、凄惨な現場のただ中で微笑む襲撃者に、王子は喘ぎながら言葉をかけた
    「…お…ま、え……は……」
    「私は奸計により北方に追放されし悪魔の娘。」
    喉をせり上がってきた熱い塊に王子の表情が歪む、少女は素早く彼を抱き留めた
    ごぼり、とくぐもった音がして少女の身体が王子の吐いた血で染まる
    焼けるような緋色の熱さに、彼女はうっとりしながらため息をこぼした…
    「そして貴方の母、あの魔性の女との禁断の忌み子にございます。」

    愛おしげに抱きしめられながら、利き手を縫い止められ、熱い女の身体とは反対に
    急速に熱が抜けていく己の身体を何処か他人事のように眺めながら、王子は悟った。
    王が行ったという性急な婚姻。母に囁かれ続けた黒い噂。己の出自を疑う貴族達の声。
    母の肖像と瓜二つのこの娘。そして、長年己の心の奥底でくすぶり続けてきたこの想いは…

    「さぁ…一緒にまいりましょう?」
    歌うような声で、少女はは乱雑に引き抜いた短剣を振り上げた
    しかし、少女の動きはそこで止められた。
    振り上げた腕を、瀕死の王子が傷のない手で握りしめ、動きを封じたのだ
    死の淵にいるとは思えぬそのあまりの力強さに、少女の顔が驚愕に満ちる。
    一方、彼女の動きを封じた王子は…、嗤っていた。

    見開かれた紺青と瑠璃の視線が、瑠璃紺と翡翠の光を持ってぶつかりあう

    恐怖かそれとも期待か、少女は視線をそらせぬままに頬を染め、
    そして怯えているかのように、待ち望んでいるかのように小さな身体を震わせる。
    力の抜けた掌から、甲高い音を上げて短剣が寝台の傍へと落ちていった

    「…本当に、お前は度し難く、暗愚で浅ましく賤しい女だ。」
    深紅に染まった唇を歪め「彼」の声は広い寝室の中に低く響き渡った
    「お前ほど愚かな女は、この世のどこにもありはしない…」
    血の気が失せ、石膏のような白さの貌が、恍惚とする少女をなじる
    やがて、紺青の瞳がふっと細められ、「彼」は穏やかな声音で、こう言った。

    「そうだ。この身が引き裂かれたあの日から…私は…お前を捜していた…」



    さくりさくり…と、芝生が延々と続く王宮の庭を彼女は歩いていた。
    周囲に人の気配はなく、整えられた梢の遥か遠くに、建物の灯りが
    ぼんやりと浮かんで見えるだけ。あとはうっすらとした月明かりと、
    気の早い虫の声だけが響くだけの孤独な空間…

    「…想い人には逢えましたかな」
    異国のイントネーションを纏った口ぶりで、仮面の男は突然闇から現れた
    闇色の外套の裾には遠く南の異教徒が好む守護のモザイクが織り込まれている

    突然現れた珍客に、彼女は驚くそぶりすら見せず、悠然とドレスの裾を摘んで一礼した。
    「ええ、ええ、妖精さん。おかげで、私、ようやくお逢いすることができましたわ」
    丁寧に布にくるまれた包みを愛おしそうに抱きしめながら、彼女は笑顔で答える
    その遣り取りだけに目を向けさえすれば、何処か平穏とした雰囲気にも見える遣り取りだ。
    しかし、裾が引き裂かれたドレスと汚れた素足で地を歩き、全身血塗れという
    彼女の出で立ちは、むしろその平穏が狂気に彩られている事を如実に表している。
    噎せ返るような鉄錆の香りを前に、仮面の男は平然と尋ねた。

    「では、これから如何なされるのか。お嬢さん」
    「…それを聞いて、妖精さんはどうなさるの?」
    笑顔のまま、彼女は収めていた短剣を引き抜いた。
    「もしや、私と「彼」の間を引き裂くおつもり…?あら、いやだ、そんなこと。」
    そう答えた女の瞳に、得体の知れぬ輝きを見てとると、仮面の男は無言のまま道を譲った。
    女は血染めの短剣を握りしめ、布の包みを抱きしめたまま、譲られた道を歩き出す

    彼女の背後で、男と同じ仮面の男がゆっくりと曲刀(シミター)に手をかけた
    長身の男は、そんな部下の動きを片手で制すと低く呟いた。
    「…狂人かもしれぬが、我々にとっては恩人だ。恩人を害する事は我らの教義に反する」
    部下は素早い動きで曲刀を収めると、そのまま静かに周囲の闇へと消えた。
    手筈の通り、彼は本国にこの喜ばしい知らせを持ち帰るだろう。
    「敵対する異教の国の王子が死んだ。開戦するならば今をおいて他に無し。」と…

    仮面の男は、去りゆく狂女の背中に別れの言葉を告げた。
    「お嬢さん。貴方「達」の行く手に、至高なる神の平安がありますことを」
    狂女は包みを大切そうに抱きしめながら、にこやかな笑みでこう返した
    「ええ、妖精さん。あなた方の行く道に我らが神の怨嗟がありますことを」
    男は静かに笑うと、紫紺の髪を翻し部下と同じく闇へと消えた


    広大な王宮から繋がる森への入り口、
    鬱蒼と茂る木々が月の光さえ通さぬ漆黒の世界を前に、彼女は歩みを止めた。
    そこには、打ち棄てられ、崩れ落ちた教会跡と、朽ち果てた十字架が残されている。
    全身に浴びた返り血が酸化し、まるでどす黒いドレスを纏ったかのような少女は
    包みの中から取りだした「王子」の首に口づけると、感極まったように叫んだ

    「ああ!貴方の口にくちづけしたわ、カイザレお兄様!」



    【Cendrillon】終劇

    ビアズリーは幼い自分には刺激が強すぎたらしい。(苦笑)

    Cantarella(カンタレラ)とCendrillon(サンドリヨン)
    どちらもカイミク曲として著名なモチーフですし、
    この二つを繋いだ話は、既に世で多く出されているに違いありません。
    それでも自分が書きたかったから書いた。自重しませんでした。
    改めて、黒うさPとシグナルPに精一杯の感謝と心からの懺悔を…

    以前書いた2つのBAD ENDとは別の結末から派生したかもしれない話です
    Cantarellaの時にイギリスヴィクトリア朝と書いたのですが、BAD END時に
    ルネサンス期イタリアの雰囲気を混ぜ、更に今回は若干スペインが入りましたね…
    時代考証もてんでバラバラですが…ほらこれ御伽噺だから!!(殴)
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