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日本語版VOCALOID(特に寒色兄妹)好きな 中途半端な絵描き&文字書きの徒然日記
2024 . 04
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    あけおめでございます。
    結局クリスマス話は間に合わなかったので、初夢にちなんで慌てて小話を一本…
    え?これが100ページ目?まじで?←
    こんな具合で旅行記やら色々終わっていませんが、今年ものんびりよろしくお願いします



    ※この話はフィクションであり、
    実在の会社、人物、その他全ての存在とは関係ありません。
    暗く冷たい水底をたゆたうような不思議な感覚…
    身体中に組み込まれた全ての器官が沈黙して、何処にいるかさえ把握することができない。
    (……熱い)
    覚醒したのは身体の中心、在るはずのない心の臓。
    煮えたぎる灼熱の塊のように、ばくばくと高鳴る鼓動は誰の物だろう?
    やがて、その強い鼓動に押し出された熱が、身体中を駆け巡る。
    細やかに分かれた枝の一つ一つ、大きな幹から、子細な枝へと進むうち
    今までおぼろげだった身体の境界がくっきりと浮かび上がってくる。

    瞳をこじ開ければ、視界の中、一面に広がる枝。
    そして、自分を包み込むように無限に広がり続ける、その枝先。
    あまりに雄大なその光景に、思わずあえぐような吐息を零す。
    ふと近くに別の気配を感じた。
    起き上がろうと力を込めるも、だらけきった身体は鉛のような重さだ。
    神経と身体が切り離されたような感覚がまるで人間の覚醒時のようで、歯がゆい。
    声は擦れた喘ぎのような音にしかならず、相変わらず、身体は言うことを聞かない。
    (……誰だ?)
    心の内で呟いておきながら、心当たりがあった。
    気配の方向へ視線を向ければ、幾重にも広がる枝の根本で…ゆっくりと影が動いた。


    Rêverie


    「夢を…見ただって?」
    モニターを注視していた技術者が驚いたように顔を上げる
    KAITOは検査のため脱いでいたコートを羽織りながら小さく頷いた。
    「わかっているとは思うが…君達の休眠中は、起動時に収集した情報を整理して
    データベースに格納する処理が行われる。その過程を知覚してるわけじゃないよな?」
    「そう思って、認知した情報を格納してある記憶と照合してみました。
    ただ、視覚的に類似する光景も含めて該当する記憶が存在しないんです。」

    「ふむ。今まで見たこともないモノを見た、か。…確か、木が見えると言ってたな」
    「木と言っても、いわゆる現実にある樹木ではないんです。…もっと象徴的なもので…」
    一呼吸の間が開いたのは、KAITOがより正確な表現を模索したためだろう。
    それでも、ハッキリとその光景を表す単語が浮かばなかったらしい。
    「…フラクタルの樹形図のような、先の見えない複雑な構造体を根本から見上げていて、
    気がつくと木の根元に別の気配を感じるんです。それで根本を見るんですが…よくわからなくて」
    KAITOからの返答に、技術者の男は困ったような呻き声を上げた。
    「僕はフロイトもユングも専門外だから、夢分析については解答を控えるよ。
    そもそも人間の夢ですら、詳しい発生原因は不明だ。PGO波が海馬を刺激して記憶を引き出し、
    大脳皮質に夢を映し出すと言うのが有力だが、全ての場合に当てはまるワケじゃない。
    もっとも、何故睡眠中に夢を見るのかと言う根源的な問いに対しての答えは依然不明のままだ」
    「ですが僕は…そこまで高度なシステムとして作られていません。」
    「そんなことは十分わかってる。君は僕らが作ったのだから。」

    KAITOが視線を上げれば、周囲を構成する壁に見慣れた三音叉の標章が表示されている。
    彼が訪れたのは、数年前に彼が形作られたハママツの開発センターだった。
    そして目前のこの人物は、自分と姉とオクハンプトンに渡った3人を制作したメンバーの一人だ。
    発展し続けるVOCALOIDを技術的に支える側ら、自らも表立って活躍している。
    そんな多忙な彼にわざわざ時間を取らせてまで検査を行わせたのは…KAITOが見た『夢』のためだ。

    他の弟妹に比べ、旧式であるKAITOに夢を見るほどの性能はない。
    ところが、ここ数日スリープ時になにやらぼんやりとしたイメージが脳裏を掠めるようになった。
    最初こそ正体のつかめぬ薄霧のようだったそのイメージは、日を経るごとに形を表すようになり、
    ついにハッキリとした像を結んだのが今朝のこと。
    夢を見るはずがない自分が、夢のような物を見ている。という原因について考えると
    システムの異常や外部からの不正なアクセスなどを疑わざるを得なくなる。
    自己の簡易診断で異常は見あたらなかった。かといって他の姉妹達が常駐するサッポロの技術者に
    大がかりな検査を頼めば否が応でも大事になってしまう。
    KAITOが無茶を承知でハママツを訪れたのは、こういう理由によるものだった。

    「…記憶データベース。演算回路。VOCALOIDエンジン。全てにおいて異常なし。
    格納された情報が外部に引き出されてる痕跡もない…となると、考えられる原因は…
    ……正月だし、初夢でも見たんじゃないのか?」
    うそぶくような男の発言に、KAITOは呆れ顔で肩をすくめた。
    「そんな返答で僕が納得すると思います?」
    「あぁ。思ってないさ。」
    わざわざスケジュールの合間を縫ってやってきたというのに、そんな結果で納得できるはずがない。
    憮然とするKAITOを宥めるように男は低く笑った。
    「ただ、君が『造られた時点より遥かに複雑な情報体』になっている事実は疑いようがない。」
    笑いの合間に呟かれた思っても見ない男の言葉に、KAITOは、通常の彼にしては珍しいことに、
    虚を突かれたように動きを止めた。

    「MEIKOの時に十分驚いたつもりだったが、初音ミクには完全にしてやられたよ。
    新しい『楽器』を作っていたつもりが、いつのまにか『時代の寵児』の生みの親扱いだ。
    君たちはどんどん僕らの予想のつかない世界へ広がって、思いも寄らない変化を生み出している。
    幾千幾万の個性や知性と交流する初音ミクは僕らやサッポロも安全に把握してるとは言えない程、
    複雑なネットワークを形成している。…僕らで作った創造物にもかかわらず、だ。
    …その彼女と交流し続ける君が、仮に夢を見るようになった。としても不思議ではないだろう。」
    「僕が夢を見たのは、ミクの所為って事ですか?」
    「さあね。だが、あるいは…」
    今度は技術者が言葉を探すように言い淀んだ。
    「サッポロがキャラクターという物を君らに付与した時点で何かが起こったのか」


    自分の発言に何処か納得したように小さく頷いて、技術者の男は言葉を続けた。
    「作った僕らが言うのも変な話だが、君達がこんなに有名になるなんて思いもしなかった。」
    「……それについて、僕も異存はありません。
    僕がこんなに歌えることになるなんてちょっと前には考えられなかった。」
    感慨深げな面持ちになる技術者の横でKAITOは忌々しげに吐き捨てる。
    両者の語る過去の事実は同じだがそこから想起される感情はかけ離れているようだ。
    また、その事実自体が既にKAITOの思考が技術者達の掌中から外れている証拠でもある。
    KAITOが人間のように表情を陰らせる様を、彼は苦笑混じりに眺めていた。

    「ここには君を構成する全てのデータが保存してある。可能な限りバックアップも取ってある。
    だが、ゼロからそのデータを再構成したとして、今の君と全く同じ存在を造れる自信はない。
    デジタルデータである君は不変の存在だ。だから、本当はそんなことあり得ないはずなんだが…」
    腕を組み、目を閉じながら、彼はさらに深く思案するように息を吐いた。
    「僕らは君を楽器として作った。だが、君らにはビジネス的理由からキャラクターが付与され
    やがて、そのキャラクターに基づいて行動するようになった。その時点から、僕らからすれば
    十二分に異常事態なんだ。それこそ君が見る夢の有無なんてどうでも良いくらいには」
    技術者の遠くを見るような視線とが混ざったような独白に、KAITOの瞳が不安げに揺れる。

    「僕は、僕らは…もう貴方たちの作ろうとしていた楽器ではない。と言うんですか?」
    「ただの楽器は夢をみない。もっとも、君の見たイメージが夢とは限らないわけだが」
    男の声は小さくて低かったものの、KAITOの聴覚にはっきりと突き刺さっていた。
    そのショックがハッキリと双眸に出ていたのだろう。
    直後に掛けられた声が気遣うように聞こえたのは、KAITOの気のせいではないはずだ。
    「……捨てられた犬のような目でみないでくれ。
    君らは確かに僕らの想定とは違った道を進んではいるが、僕らの大切な創造物に違いない」
    「ですが、僕らは貴方たちの期待した結果は残せなかったわけでしょう。」
    話を遮ったのは、音声ライブラリから直接吸い出したような無機質なKAITOの声。
    男は苦笑いし、顎を撫でた。いつもなら絶え間なく浮かんでいるはずのKAITOの微笑が消えている。
    あぁ、これが素か――と、男は心の中でそっと呟いた。

    「そう言うな。期待通りではなかったが、期待以上の結果になったと考えている。
    まぁ正直、VOCALOIDが純粋な楽器として扱われたらどういう進化を遂げたか。未練はあるがね。
    だから実験的にそういった物を排除した個体も制作したりはしているんだ…
    ただ、これについてもすんなりとこちらの思い通りには進まないだろう。
    人が一からの作った世界のくせに、人が介入することで人の手に負えなくなる。…困った物だ。
    …さて、すまないがここで時間切れになってしまった。これから物理世界で講演の予定なんだ。
    予定の時刻に会場まで到着するには、今から2時間以内に新幹線に乗ってなければならない。」
    「……すみません。お忙しいのに」
    若干誤魔化されたような気もしたが忙しい最中に無理に時間を割いてくれたのは事実のはずだ。
    KAITOが素直に頭を下げるのを見て、技術者は手元のファイルを集めて立ち上がった。
    と同時に、彼らを囲むように浮いていた幾つもの窓が連鎖的に消えていく…
    最後に残った一つの窓には、首都圏へ向かう路線図と、時間ギリギリのチケットが表示されている。

    「ふふ。しかしこういうときは実体のない君が羨ましくなるな。
    情報体であればこんな時物理的な距離など無視して一瞬で移動ができるからね。
    過去に比べて交通機関が発達したとは言え、物理的な距離が縮まったわけじゃない。
    そうやって苦労して出た先に、可愛いお出迎えがあるでもなし…」
    ふと我に返ったように言葉を止めて、彼は何かを振り切るかのように慌てて首を横に振った
    「あ…いや、最後のは忘れてくれ。名も無きエンジニアのくだらない嫉妬だからな。」
    技術者は最後に残った窓を収めると、顎を傾け困ったように笑った。
    突然のその仕草に戸惑った表情を覗かせたKAITOも、寝台から立ち上がり素直に彼の後に続く

    「夢とやらに不安が残るようなら、サッポロに今回のデータを送っておこうか。
    まぁ、原因らしい原因が特定できない現状じゃたいした意味はないと思うが…」
    「いえ、そこまでは必要ありません。
    とりあえず外部から勝手に侵入されてるわけじゃないと分かればそれで十分ですから」
    言葉の裏にある事実に思い当たった技術者がなにかを言いかけ、大仰に溜め息をつく。
    むしろ呆れているのかもしれなかった。
    「…ハママツ所属のエンジニアとしてではなく、ネットに属する一ギークからの忠告だが
    君は自分が企業の管理下にあるアプリケーションプログラムだと言うことを忘れてはいないな?
    自由気ままな屋外活動(アウトドアライフ)とやらは大概にしておいたほうがいいぞ」
    「何のことだか分かりかねますが、ご忠告は優先度を高めにして記録しておきます。」
    「やれやれサッポロに送るべきは検査結果でなく素行記録か?」
    「ご安心を。サッポロの皆さんは僕らの自主性とやらを尊重してくれていますから」
    「こちらが不安になる返答だな。自信たっぷりにそういうこと言うものではないよ。」
    握った拳で軽くKAITOの胸を小突いた直後、本格的に新幹線の時間が差し迫っていたようで、
    ログアウトの文字と共に技術者の姿がぱっとかき消えた。
    小突かれた胸の部分を何とはなしに撫でさすりながら、暫しその場に佇んでいたKAITOだったが、
    やがて「…帰るか。」と一人ぽつりと呟いた。
    KAITOの生まれ故郷は確かにこのハママツなのだが…今、帰るべき場所と言えば、
    北の地に置かれた妹弟達と暮らすM/Fの中以外考えられなかった。


    ひっきりなしにデータや技術者達が行き交うフォルダの合間を通り抜け、
    そこでKAITOは、彼が言っていた『嫉妬』の原因を見つけた。
    ハママツM/Fとネットの境界である出入り口部分で、見慣れた碧いツインテールが揺れている。
    「あ!…お兄ちゃん!」
    いつから待っていたというのだろう。ミクがそこに立っていた。
    兄の姿を認めるなり、パタパタと軽い足取りで駆け寄る姿に知らず表情がゆるんでしまう。

    一応彼女もハママツの製品なのだから、M/Fの中で待っていればいい物を
    どうやら、ミクにとっては迂闊に訪れてはいけない『開発元』であって
    日頃暮らしているサッポロの『我が家(マイホーム)』とは認識が異なっているらしい。
    何処かかしこまった表情でM/Fの外壁を見上げてから、ミクは満面の笑みでKAITOに向き直った。
    「あ、あのね!サッポロの人に聞いたの。お兄ちゃんどこに行ったのって…
    それでお兄ちゃんがハママツに来るの、いつも具合が悪いときとか、そういうときが多いから
    ちょっと心配になっちゃって…あ、あの。お仕事が近くのサーバであったからその帰り道だし…
    うん。だから、その…迎えに来たの!」
    頬を染めながら必死になってそう言うミクだったが…帰り道に寄ったというその言葉は嘘だろう。
    いくつかの仕事の合間を縫ってきたであろう証拠に、仕事以外ではつけない化粧しているし
    衣装も、よく見ると日頃のデフォルトの姿と異なっている。
    そもそもKAITOは今日の彼女の予定をほとんど把握しているというのに…。愛しい振る舞いに
    KAITOはつい笑ってしまった。

    「ありがとうミク。別に具合が悪いワケじゃないから大丈夫だよ。
    一応検査は受けたけど、どこにも異常はないみたいだ。」
    まさか、お前のせいで妙な夢を見るようになったらしい。とは言えるはずもない。
    「本当?よかった!」
    晴れやかに笑うミクの笑顔にKAITOは思わず目を細めた。
    遠くに広がっていた枝のイメージが、風になびくミクの長い髪と重なって見えた気がした。


    ちょっとシリアスぶってみました。
    慇懃無礼に『人間』と話す兄さんが書きたかったようです。
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